ライバル登場?
「ふんっ!」
「ぐえっ……!?」
俺の振るった武器を腹に食らって、敵前衛が悶絶する。
ついでに軽く後退するそいつに代わってトンファー装備の中衛が襲ってくるも、俺は武器を引き、先端を突いて迎撃した。
ぐさり、肩に刺さった穂先に「ぐっ……!」と悲鳴が上がり、二人が降参。
「さあ、残りはお前一人だ」
槍を構え直して宣言すると、残った後衛は「……参った」と仕方なさそうに言った。
俺たちの勝ちだ。
「っし」
これで三連勝。
手応えを感じながら後ろに戻って、博己たちに「お疲れ」と言う。
すると、二人は苦笑して、
「姫宮くんこそ、絶好調だね」
「璃勾一人で勝てそうなくらいじゃないか」
「なに言ってんだよ。お前らが後ろにいてくれるから俺が戦いやすいんだろ」
◇ ◇ ◇
相談の結果、柊の武器は杖、博己の武器は銃になった。
柊には俺が攻撃を食らったらすぐに回復できるように待機してもらい、博己には俺に当たらないように後ろから援護射撃してもらう。
大して痛くなくても無視し続けるのもアレなので、敵の注意が逸れたところを俺がぶん殴ればいい。
「槍も思った以上にいいな。杖の強い版だからそりゃそうだけど」
学食のテーブルを一つ、三人で占領しつつ今日の反省会というか感想を言い合う。
俺は牛丼+小うどん、博己はオムライス、柊はスパゲティミートソース。
博己に俺専用の槍を作ってもらってる間、俺は学校支給の槍を使っている。
槍は突き刺してよし、柄でぶん殴ってよし、穂先と逆側の石突きを叩き込んでもよしの万能武器だ。
しかも剣よりリーチが長い。
棒みたいにすらっとした武器だから振り回しても使えるし、上から振り下ろして頭をぶん殴ったりもできる。
剣と違って鈍器としても使いやすいから手加減もそこそこしやすい。
デミグラスソースのかかったオムライスを博己は小さく口に運びつつ「そうだね」と頷いた。
「昔の武将なんか馬に乗ってぶんぶん振り回してたって言うし、璃勾にはぴったりだよ」
「お、それって俺が一騎当千の強さってことか?」
「そうだよ」
ジト目で「自分で言うかな」と釘を刺された。
柊はパスタをくるくるしながらくすくす笑って、
「やっぱり姫宮くんたちにお願いして良かった。わたし、安心して見てられるもん」
「柊がいてくれるおかげで多少攻撃食らっても平気だしな。助かってるよ」
「だと嬉しいな。わたし、人を攻撃するのはどうしても怖いから」
確かに、柊は訓練だと博己より強いくらいだけど、チーム内で一対一の模擬戦をしたりすると途端に動きが悪くなる。
相手に隙を作っても杖でぶん殴るのを躊躇ってしまうのだ。
「まあ、女って喧嘩苦手な奴が多いよな」
「あ、女の子だからって苦手とは限らないよ? プロだって有名な女の人、何人もいるじゃない」
「そりゃいるけどさ。柊はそういうの目指さなくても、病院とか、有名チームのサポート役とかでいいんじゃないか?」
ヒーラーは数が少ないからどこでも歓迎される。
「中学に上がったら柊さんは高学年からスカウトされるかもね」
「すげえな。さすがレアスキル。俺も負けてられないな」
「姫宮くんだって、もうクラスで一番強いんじゃない?」
柊にそう言われるとなんだか胸が熱くなる。
女子ってなに考えてるのかわからないところがあって苦手だけど、女子から褒められるのは悪くない。
男から「すげえ!」って言われると「そうだろ?」って胸を張る感じになるけど、高くて柔らかな女子の声だと「そ、そうか?」と照れくさくなる。
「でも、クラスで一番程度で喜んでられないって。学年で一番強いくらいじゃないと」
また「自分で言うな」って言われるかと思ったけど、柊も博己も笑わなかった。
むしろ「学年で一番か」と真剣な顔をして。
「さすがの璃勾でも、それはそう簡単にはいかないかもね」
「お? なんか強いやつがいるのか?」
「うん。隣のクラスに強い子がいるんだよ。レアスキル持ちで──」
「おや、もしかして僕のことを呼んだかい? 柊茉莉君」
うどんをつるつると啜っていた俺は、声のしたほうを振り返った。
見たことはあるような気もするけど、よくは覚えていない奴だった。
男にしては髪が長めで、なんか妙に艶がある。
外で遊ぶのが嫌いなのか色白。だけど、身体はけっこう鍛えられてるのがわかる。
ふふん、と、自信ありげな笑顔が俺に向いて、
「あー……えーっと、誰だっけ?」
半笑いになった博己が「やっぱり知らないかあ」と呟く。
「隣のクラスの八条君だよ。
「
なんかキザな感じで髪をかき上げた八条──八条孝太郎はなぜか柊にウインクをした。
博己がむっとした顔になる。
それに気づいているだろうに、八条は笑顔のまま俺に向き直って、
「学年最強の座は、この僕がいる限り君に渡すことはできないな」
「へえ、お前そんなに強いのか?」
「もちろん。レジェンドスキルを手に入れた君にも引けを取ることはないと自負しているよ」
そこでもう一度、髪がふぁさあ、と撫でられた。
……うん、なるほど。要するにこいつは「引けを取らないと自負」とか言いながら、俺に負けるつもりなんか全然ないのだ。
本当は俺なんかこてんぱんに叩きのめせると思ってるけど、あんまり格好つけすぎても逆にダサいから落ち着いたフリをしている。
いいじゃないか。
俺は笑った。そういうのは別に嫌いじゃない。
「俺だって、俺のほうがお前より強いと思ってるぜ」
牛丼のどんぶりを抱えたままにらみ合うと、八条は「いや、食べるのを止めたまえよ」と母さんみたいなダメ出しをしてきた。
「いや、そんなこと言うなら食事中に割って入って来るなよ」
「……ふん。そんなことはどうでもいいのさ」
あ、誤魔化しやがった。
八条は、くう、と小さく腹が鳴るのを無視して俺を見下ろして、
「姫宮璃勾。学年最強の座をかけて僕たちのチームと勝負をしないか?」
「勝負?」
「擬似ダンジョンの中で三対三の試合をするのさ。そして、勝ったほうのチームが五年生最強ということになる。どうだい?」
「へえ、なかなか面白そうだな」
話がわかりやすくていい。
マンガとかでもこの手の決闘の話はよくあるしな。やっぱり燃えるし、勝ちたいと思う。
「別に他のクラスと試合をするのは禁止じゃないもんな。な、博己?」
「う、うん。先生の立会いは必要だけど、擬似ダンジョンの中なら大丈夫だよ。……もちろん、中で死んじゃうと復活に時間はかかるけど」
「決闘に多少のリスクはつきものだろう。むしろ、何日かダンジョンに潜れない程度で済めば安いものさ」
「確かにその通りだ」
普通、決闘ってのは負けたら終わり。
だけど、俺たちは何日か授業に出られないだけで済む。
むしろ大きいデメリットは、
「わざわざ決闘して負けたら格好悪いよな?」
「ああ、そうだね。最強がどちらなのかはっきりしてしまったら、君には都合が悪いかもしれない」
こいつ、こういう時の言い合いってものがわかってるじゃないか。
相変わらずこっちを見下ろしてくる八条を俺は見上げるようにして笑って。
「いいぜ。だけど、勝つのは俺たちだ」
すると、八条はさらに得意げな笑顔を浮かべた。
「それは良かった。……こちらが無理に強要したと言われては不都合だからね」
「なに?」
「姫宮璃勾君。君に、いや君たちに勝ち目はないんだよ。なぜなら僕たちは君たちよりも圧倒的に有利だからだ」
マンガに出てくる嫌味な悪役そのまま。
「僕たちには君たちを大きく上回る個人領域の容量がある。これがどういうことだかわかるだろう?」
「っ。俺たちよりも強い武器が使えるってことか」
「そうさ。……あーあ。少し、決断をするのが早かったかもしれないねえ、姫宮君?」
俺は、八条たちの操る銃に蜂の巣にされる俺たちの姿を想像した。
そしてその想像は、相手チームの戦術と大きく違ってはいなかった。
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