初めてのパーティ
「ぼ、僕が
放課後になってすぐ、博己を捕まえて話をすると、意外にもびくびくした感じで瞬きをされた。
「あの、どうして僕を?」
「だって楽だろ。お前と一緒のほうが」
「そ、それだけ?」
「なんだよ。柊もいいって言ったぞ。なあ?」
お行儀よく鞄を持って歩いてきた柊は笑顔で「うん」と頷いて、
「わたしも
「だ、だめなんて、そんな!」
またしても上目遣いで目をうるうる。
あれか。その顔は柊の必殺技なのか。……こいつ、大人しそうに見えて意外に腹黒いんじゃないのか。
天然でやってるとしても、その技があればだいたいの男子は動揺する。
この三人でチームを組むとしたら博己は力関係で最下位になりそうだ。
……案外、柊と離したほうがこいつのためか?
「他にアテがあるんなら諦めるけど」
言うと、博己はため息をついた。
「アテなんかないよ。……僕となんかみんな組みたくないだろうし」
「あー。お前、後衛どころかバックアップ担当だもんな」
「そうだよ。中等部になれば授業が分かれるけど、それまでは憂鬱だよ」
別にスキルがサポート系だからって戦えないわけじゃない。
だけど、スキル持ちとスキルなしで殴り合うのは厳しい。殴り合いに向いてる奴はだいたいその手のスキルを手に入れるので差はなおさらだ。
「つまり俺が三人分敵を倒せばいいわけだな?」
「簡単に言うなあ」
さすがに無理でしょ、と言いたげなジト目。
柊はこれに苦笑して、
「無茶だけど、姫宮くんならやっちゃうかも」
「う。……柊さんは璃勾のこと頼りにしてるんだ?」
「うん、してるよ。すごく」
「用心棒としてな」
にっこり笑って否定しない柊。うん、なんかこいつの性格がわかってきた気がするぞ。
案外、話してみたいと本当のことはわからないもんだ。
……っていうか俺、こんなに察しが良かったか? スキルで頭が良くなった影響か?
「じゃあ、博己もチームに参加でいいよな?」
「うん、いいよ。でも璃勾ならいくらでも誘いがありそうだけど」
言われて、俺は教室内を見渡した。
何人もこっちを見てくる奴がいる。そいつらは「まあしょうがないか」という顔をしていた。
「姫宮一人倒せばいいならまだ勝ち目はあるな」
「強い奴らで固まられたら無理だもんな」
体育でやるサッカーのチーム分けみたいなもんか。
片方に上手いやつが集まりすぎても面白くないからある程度狙って分散させる。
そういうことなら特に文句は出なさそうだ。
博己もそれ以上は文句を言わなかったので、無事に俺たちはチームを結成した。
申請フォームにそれぞれが登録して送信。
これで、先生のところにチームの構成が送られた。
「まあ、柊と博己が弱いなんて俺は思ってないんだけどな?」
本当にこれでバランスが取れてるかはやってみてのお楽しみだ。
◇ ◇ ◇
「しっかし、なんか体力が有り余ってるなあ」
通学路の途中で博己たちと分かれて一人、家に帰りながら俺はぼやいた。
前より疲れが溜まりにくくなっている。
帰って休むよりむしろ身体を動かしたい。学校の敷地内でランニングでもしてくれば良かったか?
「トレーニングかあ」
うちは庭付きの一戸建てだけどそこまで広くない。
できるとしたら剣の素振りくらいか。
とりあえず帰って部屋着(ぶかぶかのジャージ)に着替えてから検索してみる。
『探索者』『自主トレ』『方法』とか適当なワードを思い浮かべるだけで検索結果が出てくる。ページの切り替えも視線と思考だけでOKだから超楽だ。
昔はもっと大変だったらしいけど。
「あー。トレーニング用の擬似ダンジョンって自前でも作れるのか」
ダンジョンと擬似ダンジョンの違いは「ほっておくと大きくなるかどうか」だ。
ダンジョンは放置するとどんどん大きくなって敵も強くなるし、ネットワークに影響を与える。なので探索者がダイブして早めに潰す。
でも、擬似ダンジョンはサイズが変わらないから自分のデータ領域に保存しておける。
もちろんデータをめちゃめちゃ食うし、作るのに金か技術がいるんだけど。
「俺じゃ無理無理。えーっと、後は……」
学校に申請すると放課後、空いている擬似ダンジョンを使わせてもらえるらしい。
これはアリだな。
とりあえずその情報を貼り付けて、柊と博己と俺で作ったグループ部屋に乗っけておく。
『ここで特訓できるらしいぞ』
二人からはちょっと経ってからあんまり気乗りしない感じのスタンプが返ってきたけど、暇を見つけて実際に特訓してやった。
その結果わかったことは、柊は思ったより動ける。
むしろ運動神経は博己よりいいかもしれない。そう囁いてやったら「僕だって」と急にやる気を出してたのが面白かった。
やっぱり好きな女子に格好いいところを見せたいらしい。
◇ ◇ ◇
それからしばらく経って五月に入り、チームの編成が正式に確定した。
ダイブしての授業はチーム単位で連携の練習をしたり、別のチームと軽く模擬戦をしたりが多くなった。
「みなさん、なるべくみんなを
ダンジョン内で死んでも
もちろん死ぬと痛いしできれば勘弁だけど、死んでもダンジョンから追い出されてしばらくダイブできなくなるだけだ。
復活までにかかる時間は死んだ時の状態にもよるけど、早くて二、三日。跡形もなくバラバラにされたりすると一ヶ月近くかかることもあるらしい。
授業でばんばん殺してたら見学の奴が増えるのでその辺は手加減するんだけど──。
「手加減ってのもけっこう難しいよなあ」
「勝つ前提みたいに言ってんじゃねえよ!」
戦いながらぼやいたら対戦相手に文句を言われた。
そんなこと言われても、やるからには勝つつもりで戦うに決まっている。
向こうは前衛二、後衛一。後衛もスキルを飛ばして攻撃してくるタイプだ。
俺はそいつらを相手にまっすぐ突っ込み、右手に握った武器で牽制した。
ぱん、ぱん、と軽い音。
「痛っ! ……この野郎!」
今回試してみたのは銃だ。
小型の拳銃。銃口を相手に向けてトリガーするだけで弾が飛んで相手に怪我をさせられる。子供や女でも人を殺せる道具として多くのテロや戦争で使われたらしいけど、
「んー。意外と銃って使い勝手悪いな」
ダンジョン内だと案外、最強ってわけでもない。
剣とか弓みたいな古い武器に比べると複雑で、データ量が多い。
中で使う装備は個人領域にデータを入れておいて呼び出す形なので、金の力で領域を拡張しないと使えるデータ量が限られる。
狭い領域に収めようとすると一発一発の威力が低くなって、当たっても「痛い」程度で済んでしまう。
飛距離もそんなにないし精度も思ったほど良くないので練習しないと使いこなせそうにない。
まあ、ぶん殴れるような距離で連射すれば当たるしそこそこダメージも出るが。
「近づいたんならぶん殴ったほうが早くね?」
「だからって銃でぶん殴って来るんじゃねえよ、ゴリラかお前!?」
「ウッホウッホ」
向こうのネタに乗りつつ一人を集中攻撃、降参させた俺だったものの、何発も撃たないと倒せないうえに動きも十分止められないせいで、残った二人に態勢を立て直されてしまった。
敵の後衛と前衛に挟みうちにされて、
「これならお前もさすがにやりづらいだろ」
「くそ。……まいった。降参だ」
二対二になってしまうと柊たちが不利に決まっている。二人も多少抵抗してみせたものの、電脳世界用のアバターが重傷を負う前に降参。
俺としても反省点の残る模擬戦になった。
「駄目だ。俺には向いてないわ、銃」
「璃勾一人ならあちこち逃げ回りながら戦えそうだけど……」
「わたしたちがいるから難しいよね」
「ああ。でもまあ、だいたい戦い方はわかってきた気がする」
飛び道具よりは直接ぶん殴れる近接武器。
そのうえでなるべくいろんな使い方ができて便利なやつ。
「よし。博己、お前のスキルであれ作ってくれ」
俺はようやく自分の武器をなんにするかある程度絞り込んだ。
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