女になった俺

「本当にどうなってるんだよ、これ」


 全員がユニークスキルを手に入れた後も、みんなに一番注目されているのは俺だった。

 虹の光はレジェンド級。

 最上級のスキルで、すごい力を持っているはず、なんだけど。


「お前のスキル、女になるだけなのかよ?」

「俺が聞きたいんだよ」


 俺はウィンドウを開いてスキルの説明文を表示した。


『プリンセス・プロモーション

 【種別】ユニークスキル

 【ランク】レジェンド

 【効果】美少女になることで知力・身体能力が飛躍的に向上する』


 しばらくそれをじーっと見て、


「うん、わからん」

「ん? とりあえず強くなってるって事じゃねえの?」


 一人が言いながら俺にパンチしてくる。

 軽くだが、いきなりのそれに──身体が動いた。

 ぱしっと手を受け止めてから「おお?」と俺自身が驚く。


「なんかすげえな」

「自分で言うなよ」


 面白がった友達が次々パンチしてくるのを俺は全部手で受け止めた。

 なんかよくわからないけど確かに強くなってるっぽい。

 変身して強くなるとか小さい女向けのアニメみたいだな。


「じゃなくて。わからないのは戻る方法だって」

「もう一回使えば戻るとかじゃねえの?」

「……確かにもう一回使えそうだな」


 スキルのウィンドウは『使用中』の状態になっていない。


「スキルを使うには念じればいいんだっけか」

「念じるって言ってもいきなりは難しいけどな」


 念じなくても、特定のボイスコマンド(呪文)で発動するようにしたり、ウィンドウからタップしても使えるらしい。

 今回は普通にタップして、


「うお……!?」


 元に戻らない。


「おい、なんか変わったところないのか?」

「んー……。尻が余計きつくなった」


 むしろ外野から見てなにかわからないのか聞くと「ちょっとデカくなった」らしい。


「あと、なんつーか……可愛くなった?」

「お前なに言ってんの?」


 ジト目で見つつ、俺は鏡を出した。

 ネット検索したり電話をかけたりするのと一緒で基本的な機能の一つだ。

 で、映してみると……まあ、確かに可愛い気がする。女のことなんてよくわからないけど、柊と同じくらいなんじゃないか。

 俺はそれを睨みつつ、さらにもう一回スキルを使って、


「マジかよ」


 身長が伸びて、可愛さが上がった。

 なんかこう、絶望的な感じがしてきたが、これがどういうスキルなのかはわかった気がする。


 スキルを使うたびに半年分くらい歳を取って、さらにちょっと可愛くなる。

 で、


「……これ俺、男に戻れないんじゃね?」


 レジェンドスキルは嬉しいけど、女になるとか聞いてない。



    ◇    ◇    ◇



 先生は、いきなり女になった俺のことを心配してくれた。


「姿が変わっちゃう子もたまにいるから、そんなに心配しなくていいからね?」


 スキルの中には羽が生えるとか耳が生えるとか、身体の一部もしくは全部が動物みたいになるみたいなものもある。

 先輩がそうなってるのを俺も見たことある。

 クエスター・アカデミーではそういうのが当たり前なのでみんなそこまで大きくは気にしない。


「でも、着替えとか困るよね? 女の子と一緒に着替えさせてもらう?」


 聞かれた俺は少し考えてから「いいですよ」と答えた。


「男と一緒に着替えたくない、とか言われるの嫌だし。それに、まだ戻らないと決まったわけじゃないし」


 普通に男子更衣室で着替えることにした。

 きつくなったスーツを脱げるのは正直ほっとする。

 身長はちょっと縮んだ気もするが、スキルを追加で二回使ったので一歳分くらい──六年生の女子くらいまで成長している。


「勿体ないけど、スーツは注文し直しだよな。っつーか、しばらくは体操着で出るか」


 別にダイブスーツは着なくても問題ない。

 プロの探索者の中にはオリジナルの衣装でダイブしてる人もいるし、極端な話、敵の攻撃を全部避けるつもりなら裸でもいい。

 俺は、はあ、とため息をつきながらスーツを脱いで、


「うわ、パンツも合ってないじゃん。母さんになんて説明したらいいんだよ。……先生にもう一回後で相談しよ」

「いや、っつーかさ、姫宮」

「あ?」


 なんか知らないけどみんながこっちを見ていた。


「なんだよ」

「なんだよ、じゃねえよ! 当たり前みたいに脱いでんじゃねえ!」

「んなこと言われても……」


 スーツを着た女子を見た時も思ったけど、男子の身体と女子の身体ってのは全然違う。

 女子は柔らかいし、細い。

 肌は白くて毛があんまり生えてなくて、股間にアレがない。

 代わりに胸が、先生みたいに大きくはないけど確実に「ある」のがわかるくらい膨らんでいる。


「へー。女子ってこうなってるんだな」

「ばっ!? お前、あれだろ、馬鹿だろ!? 馬鹿なんだな!?」

「いや、だから気にしすぎだろお前ら」


 なんで顔真っ赤にしてるんだよ。


「お前らだっていつも女子と喧嘩してるくせに。本当は裸とか見たかったのかよ。エロいなー」

「エロ……っ!? いや、それはなんつーかあれだろ、話が別だろ」

「別か?」


 首を傾げつつ、俺は肌着とパンツを脱いだ。

 サイズが合わなくて落ち着かない。これなら体操着を直に着てから制服を着るほうがマシだ。

 思いつつ、なんかつるつるした股間を眺める。俺には妹がいないからこういうのは見たことがない。いや、昔母さんのを見たような気はするけど、


「……姫宮。お前、もうちょっと周りに気を遣え」


 今度はみんなして俺から目をそらしていた。

 いや、うん。まあ、気持ちはわかるようなわからないような。

 俺だって、友達の一人がいきなり可愛い女子になって、しかもいきなり裸になりだしたら「なにやってんだ!?」と思うかもしれない。

 思うかもしれないけど、俺だぞ?


「男の裸見て興奮するとか、お前ら変態かよ」


 言ったらみんなからぶん殴られそうになったので全部避けてやった。

 見た目的には筋肉減ってる気がするのに身体が軽い。これがレジェンドスキルの力ってやつなのか。



    ◇    ◇    ◇



 で、俺の身体は女になったまま放課後まで戻らなかった。

 先生に相談したら一緒に家までついてきてくれて、母さんに事情を説明してくれた。

 さすがに母さんは驚いたけど、泣いたり怒ったりとかはしなかった。


「女の子で良かった。犬だったら私、アレルギーだから、璃勾りくを寮に入れないといけなかったかも」

「それはそれで楽そうだけどなー」

「でも、姫宮くん。そうしたら男子寮に入るか女子寮に入るか決めないといけないよ?」

「あー」


 そりゃ男子だし男子寮なんだろうけど、あいつらみたいな反応をいちいちされたら面倒くさい。

 やっぱり家が一番か。


「それでさ、母さん。悪いけど服を買い替えないといけなくて……」

「あ、お金なら大丈夫だよ、姫宮くん。レア以上のスキルには給付金が入るから」


 先生が持ってきた書類──と言ってもデータを母さんの固有領域に直接転送するだけだけど──にはレジェンドスキルの保有者ホルダーに支払われる金額が書かれていて、


「こんなにもらえるのかよ!?」


 俺の一ヶ月の小遣いで考えるといったい何年分になるかっていう額だった。


「これだけあったら俺の小遣いも増やせるんじゃね?」

「そうね。増やしてあげてもいいけど、その前に服とか身の回りのものでしょ?」

「そうだった」


 特に靴だ。普通にしている分にはいいけど、運動する時は困る。

 母さんは「んー」と考えるようにして、


「明日、学校をお休みして買い物に行きましょうか。いろいろ買わないといけないし」

「うん。……あ、でも母さん、実はもう一つ問題があって」

「なあに?」

「俺の身体、スキルを使うと一気に大きくなるみたいでさ」


 その度に買い替えとかになったら大変じゃね?


「まあ、別に下着はつけなくてもいいし。家では裸でも別に平気だし、必要最低限だけ買ってくれれば──」

「それはさすがにはしたないから駄目」

「はい」


 名案だと思ったのに、真顔でダメ出しされてしまった。

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