近未来ダンジョンのプリンセスナイト
緑茶わいん
プロローグ:ユニークスキル
『ユニークスキル:プリンセス・プロモーション』
光が収まった途端、みんながざわざわし始めた。
なんだろうと首を傾げたところで、スーツがきついのに気付いた。
身体にぴったりなはずなのに尻のあたりが窮屈に感じる。他の部分はむしろ余ってるような。
両手を持ち上げる。
指も腕も細くなった気がする。
頼りない。こんなので戦えるのか?
「なんだ、これ?」
声もなんか変だ。
これじゃまるで──。
「お、おい。お前……」
こっちを見ている他の奴らはみんな変な顔をしていて、
「お前、女になってるぞ」
「は?」
言われてみると、あそこがすっきりしてぺったんこになっていた。
「……なんで俺、女になってるんだよ!?」
◇ ◇ ◇
俺──
俺の通う『クエスター・アカデミー』は高校までが一緒になったでかい学校で、ここに通っている奴はみんなダンジョンを攻略する『
母さんが言うには難関? で、通えるだけでもエリートらしいけど、その辺はよく知らない。通えてラッキー、くらいだ。
エリートとかどうでもいい。
ダンジョンに潜って敵を倒してニュースになったりするの、めちゃくちゃ格好いいだろ? だから俺は探索者になりたい。
そして、小学五年生はようやく俺たちもダンジョンに潜れるようになる歳だ。
「今日はみなさんが初めてダンジョンに潜る日です」
先生がそう言うと、クラス中がわっと盛り上がった。
俺たちは「静かに」と怒られて、
「落ち着いてください。ダンジョンは危険です。慎重に、冷静に行動できなければすぐに
先生は自分の後ろに大きなホロウィンドウを出して、その左上に『ダンジョン』と大きく書いた。
「では、ダンジョンがどういうものか。柊さん、答えてくれますか?」
「はい」
みんな(主に女子)から「可愛い」と言われてる女子、柊が立って答える。
「ダンジョンは、わたしたちの生活を邪魔するものです。電脳空間のゴミでできていて、攻略しないと大きくなってどんどん邪魔になってしまいます」
「はい。よくできました」
柊の言ったのと同じようなことがウィンドウに書き込まれていく。
「ダンジョンが初めて現れたのは今から五十年前──みなさんが生まれるよりずっと前のことです」
俺たちにとっては生まれた時から当たり前にあったので、昔はダンジョンがなかったと言われるほうがピンと来ない。
というか、昔は今みたいに、考えるだけでホロウィンドウを出したり、ネットで検索したり、電話をかけたりもできなかったらしい。
どうやって生活してたんだよ? って感じだけど、情報化? とかいうのを推し進めて今みたいな生活になったらしい。
「ダンジョンは完全情報化社会の弊害として生まれました。必要のないデータを元に構築され、外部からのアクセスを遮断する情報領域」
どうにかするには中に『
「まるで昔のRPGのようなので、この領域を『ダンジョン』と呼ぶようになったのです」
つまり、俺たちはダンジョンに潜って敵と戦えばいいわけだ。
わかりやすくていいと思う。
そのために、クエスター・アカデミーでは毎日体育の授業がある。身体を動かすのに慣れていないといざという時に戦えないからって。
それも全部、今日この日のためだ。
「ダンジョンの中では剣や銃も使えますが、もう一つ大事な武器があります。それが『スキル』です」
要するに超能力みたいなものだ。
世界のバグであるダンジョンと一緒に生まれたもので、RPGの魔法みたいに色んな種類がある。
人間の潜在能力? を形にしたものとかなんとかで、人によって覚えられるスキルは違うらしいんだけど、その中でも、
「みなさんにはこれから、学校側が作った安全な『疑似ダンジョン』に潜って『ユニークスキル』を覚えてもらいます」
初めてダンジョンに潜った時に目覚める『ユニークスキル』。
他のスキルと変わらない場合もあるし、その人だけの特別なものの場合もある。多くの探索者はこれをメインに戦うらしい。
ついに、俺にもユニークスキルが。
この日をどれだけ待ったか。
友達と何度も「どんなスキルがいいか」話し合った。スキルを持った自分を絵に描いたこともある。
俺の探索者としての人生が今日ここから始まるんだ。
拳を握る。
先生は俺たちを見つめながらにっこり笑って、
「説明するよりも体験したほうがわかりやすいかもしれませんね。……では、みなさん。ダイブスーツに着替えて第一実習室に集合してください」
◇ ◇ ◇
ダイブスーツは身体にぴったりしたオーダーメイドの服だ。
ゴムみたいに柔らかいのに鎧みたいに防御力もある。軽くて全身を覆えるので、ダンジョンの中ではこれを着るのが普通らしい。
予行演習で今までにも何回か着たけど、ぴっちりしすぎててなかなか慣れない。
他の男子も同じなのか、俺たちは文句を言いながら黒のスーツに着替えた。
広い第一実習室に行くと女子たちも集まり始めていた。
柊をはじめ、みんな白いダイブスーツだ。男子と女子で色が違う。ついでにこうやって見ると男と女の身体の違いもわかりやすい。
……と、思っていたら「じろじろ見ないでよ、えっち」と女子に怒られた。
なんだよ、とか思いながら見るのを止めて、友達に「怒られたな」とかからかわれていると、灰色のスーツを着た先生がやってきた。
「では、これから疑似ダンジョンにダイブします」
俺たちの目の前に小さなウィンドウが開いてアクセスコードが通知される。
「このアクセスコードを入力して『ダイブ』とボイスコマンドを入力してください。それでダンジョンにダイブできます」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
初めてのダイブ。緊張して手を震わせていると、気の早い奴が「ダイブ」と言って──目の前に現れた空間の裂け目へと消えていく。
いや、けっこう怖くないか、これ?
思っている間に何人も消えていく。遅れたら格好悪い。先生がこっちを見ているのを感じて、慌てて「ダイブ」と唱えた。
ぐら、と、身体が揺れるような感覚。
立っているのか座っているのか、落ちているのか飛んでいるのかわからなくなって、気がつくと俺は石の床の上にみんなと立っていた。
◇ ◇ ◇
なにもない。
白い石の床がずっと広がっている以外は壁も天井もない不思議な空間。
現実じゃないのが一瞬でわかるここが、ダンジョン。
正確には疑似ダンジョン。本物は場所によって見た目も違ったりするし、いきなり敵が出てくることもあるらしいけど。
わくわくする。
そうだ。そうこなくちゃ。
そして、最後にダイブしてきた先生が、
「では、一人ずつユニークスキルを獲得していきましょう」
初めてダイブした時点で俺たちはいつでもユニークスキルを獲得できる状態になっている。
ただ、いきなり手に入れてしまわないように今は先生がロックをかけている。
「獲得した時は必ず一度スキルが発動します。危ないかもしれないので他の子は下がってくださいね」
というわけで、一人ずつ前に出てロックが外され──瞬間、ユニークスキルが目覚めていく。
光。
その後に、俺たちにも見える形でウィンドウが開いてスキル名が表示される。
火を出す奴もいたし、武器を出す奴もいた。
柊は治癒の力だったらしく、珍しいと先生に褒められていた。
目覚めた時に出る光は普通は白っぽいけど、レア度によって変わるらしく、柊のは金色に輝いていた。
そして、俺は。
「では、姫宮くん」
「はい」
めちゃくちゃ緊張しながら前に出て、心の中で「金来い金来い」と念じる。
その間にも身体が光り始めて、
その色は白でも金色でもなく、虹色だった。
『ユニークスキル:プリンセス・プロモーション』
一瞬、光でなにも見えなくなって。
気がつくと俺は、可愛い女の子になっていた。
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※一章分書いて続きに詰まった作品。
供養として10万字程度で完結として投稿します。
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