第二十一話ー大晦日のお昼一~広瀬家~ー

 そろそろ、年を越す。というか、今日は大晦日の昼過ぎで、年を越せば夏芽はすぐ受験だ。いや、そもそも、十一月末に恋人になるって、夏芽の受験勉強の邪魔でしかないのではないのか? ふと、オレはそんな心配になった。でも、夏芽の方から何度も『好き』と言ってくれたし、キスだってクリスマスに激しいのをした。邪魔ではないのか……?


「でも……」

「迅ー、夏芽ちゃんが迎えに来たわよ」


 母さんがオレを呼んだ。『はいはーい』と、オレは玄関に向かった。玄関では、夏芽と母さんが仲良さそうに、『それはみりんをいれるといいよ』とか、『迅くんの好きそうな料理に挑戦したい』というのが聞こえた。オレの胃袋をつかむために、母さんに料理をうまくなるコツを聞いているみたいだ。


「なんというか、ホントの親子みたいだな」

「迅くーん」


 この姿だけ見ると、受験なんてまだまだ先に見える。きっと、夏芽は家で勉強頑張っているんだろうな。クリスマス会の実行委員で受験勉強出来なかった分取り戻すためにも。それで、息抜きにオレと……。そう考えると愛おしく感じた。そして、無意識のうちに夏芽を抱きしめていた。夏芽はそれをしあわせそうに受け止めてくれた。


「まったく、お母さんがいるのも忘れないでほしいわね」

「すいません……」

「夏芽ちゃんは受け身だからいいのよ。迅!!  外でもこんなことして夏芽ちゃんを困らせてないでしょうね」

「……たぶん、大丈夫?」

「なんで疑問形……」


 夏芽も母さんも同じところにツッコんだ。基本的に、オレも夏芽も感情が爆発しない限り、外では抱きしめ合ったり、キスはしない。恋人繋ぎが……。と思ったが、夏芽と正式に付き合う前に、外で頬にキスされたことを思い出した。


「で、夏芽はなんで来たの?  確か、この後、夏芽の家族とオレで年越しの用意じゃなかったけ?」

「えへへ、迅くんだけと過ごす時間も欲しくて……。あと、お義母さんに年末のあいさつしていなかったの思い出したから」

「んもー夏芽ちゃん、早くお嫁に来てほしいわー」

「ちょ、母さんこそ、変なこと言って、夏芽を困らせるなよ」

「今すぐにでも行きたいです!!」


 『ちょ夏芽!? 』とオレも困惑した。その様子を見て、夏芽は上目遣いで訴えてきた。


「迅くんはわたしと結婚したくない?」

「……たい」

「なんて?」

「したいです!!」


 『ハハッ、これじゃどっちが先輩かわからないね』と母さんは笑って家の中に入った。


「いこっか」

「そうですね」

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