第二十話ークリスマス会の後三~コスプレ~ー
夏芽とキスしたり押し倒したりしている間に、オレの個人チャットには多奈川さんから何件もwireが来ていた。それを今、確認している。
なんだなんだ? そもそも、日辻とデート中なのでは? だいたいはブレブレの写真だ。最後に一言来ていた。『どうして、私はこんなにカメラが下手なの?』だった。
「しるか、日辻に教えてもらいな」
おもわず邪険に返した。夏芽が部屋から出てきた。
「ダメですよー、迅くん、友だちは大事にしないと」
「それはそうだけどさ」
「夏美センパイでしょ? 日辻さんと付き合ったばっかりなんだから、きっと、迅くんに何か教えて欲しくて、チャット送ってきたんだよ」
「そうかねぇ?」
「ちなみに夏美センパイなんて?」
「百件超えのブレブレの写真と『なんで下手なの?』と」
「え、どんな写真? あっ待って、でも、先シャワーかりるね」
「どうぞー」
その場でまた服を脱ごうとした夏芽だ。
「ストップ!!」
「どうしたの?」
「せめて、脱衣場で脱いで」
「それもそうだね」
完全に夏芽の中でこの家は、『彼氏の家』ではなくて、『第二の自分の家』なのだろう。
風呂場の方から、キャッと夏芽の声が聞こえた。
「大丈夫かー?」
万が一の可能性も考えて、風呂場に向かった。服を着た状態で夏芽がお風呂場で尻もちを着いていた。夏芽は『あ、いたた』と言って体を起こした。
「なんで服着て、お風呂場にいたの?」
「先にお湯の温度確認したくて、それで昨日の泡かなにかが残っていたみたいで、それで滑ったの」
「oh……」
それだけ聞くとすごく痛そうだ。いや、痛い。
「迅くん、ごめん、出たあと着る上着だけ貸してほしい」
「了解ーまたこけるなよー」
上着って、Tシャツか? パーカーか? どっちだろう。どっちも用意しとくか。こういう時って、マトモなのを貸すべきだろう。クリスマス会とは関係なく、宇川さんに『夏芽と付き合った記念だ』と貰ったパーカーがあるのを思い出した。個人Vtuberのコスプレだ。コスプレと言っても赤いパーカーに青文字で半額とデカデカ書いているパーカーの服だ。
オレが試着してみよう。その服を着て、改めて『うわぁ』と思った。この服はVtuberだから、ネットだから許されるのだろう。
「迅くん、上着貸してー!!」
夏芽が叫んでいる。『今行くー!』と答えた。コスプレパーカーを脱ぎながら、風呂場へ向かっていた。よくよく考えたら、夏芽に貸すパーカーはこれでいいのか?
「衣装ケースの一番上がこれだったから、これになる」
「ありがとう」
夏芽はパーカーを着た。『んー、迅くんの匂い〜』と言っていた。いや、正しくは、家で使っている洗剤や柔軟剤の匂いだ。いや、さっきまでオレが着てたからオレの匂いでもあるか。
その後、家を出て、バスに乗って、南商店街に着いた。
「よう、夏芽ちゃんにその彼氏!!」
「宇川さん、なんか、久しぶりな気がします」
「何言ってんだい、昨日、宝賀のクリスマス会にお邪魔したばっかだ」
「そっか、あれが、昨日か……」
夏芽も同じ考えなのか、遠くの方を見るような目をしていた。特に、今日というか正午すぎた前後から嵐のようだった。
「もしかして、二人、関係もったのか? ガハハ、いや、そんなことはないか!! もし、関係もつなら避妊はちゃんとするんだぞ」
「……」
オレと夏芽は二人で顔を赤くして遠くの方を見た。
「……? 図星か」
コンビニ弁当を二こ持った忠さんが近くを通った。宇川さんと話しているから気をつかってか、オレたちをスルーしていた。
「忠!! よかったのぅ、そう遠くない未来に孫……」
「ちょっ、宇川さん!!」
さすがに、夏芽のお父さんに、実際は関係をまだもっていなくても、関係をもったと思われても困る。夏芽も同じ思いなのだろうが、夏芽のとった行動は、宇川さんへの反論ではなく、実父である忠さんへ話しかけることだった。
「そうそう、なんで、夏芽ちゃんの彼氏にあげたパーカーを夏芽ちゃんが着ているのか、おじさんは知りたい」
確かになんでだろう、よくよく考えれば、あの時キャリーケースから別の服を出せばオレから服をかりることもないのに。
「なんでだろう、いや、それよりもなんすか、あの服」
「世間的に流行ってるんやろ? Vtuber」
Vtuber、確か、動画投稿サイトやその他配信サイトで配信や動画投稿をするという人々だ。その辺の事情はあまり知らない。
「どうなんでしょう? 少なくても、こんなダサい服装したVtuberなんて聞いた事がありませんね」
「そりゃ、あの服着てるVtuberは、まだまだ、売れてないからな!!ガハハ」
売れてないネットの人のコスプレっていったいなんだろう。
「そもそも、コスプレって自分が着るから楽しいのでは?」
「わけぇやつの文化にはついていけんのよ」
オレよりもVtuberとかに詳しいのにと思ったのは秘密だ。
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