第三章~年末年始~

第十八話ークリスマス会の後一~回想~ー

 クリスマス会か……。色々あったが、終わった。二十五日に打ち上げという名目で集まろうと久賀がwireのグループチャットで言った。確かに、打ち上げもしたいな、とは思っていた。


「ごめん、今日は日辻くんと一日中デートだから」


 多奈川さんかすぐ送ってきた。楽しそうでいいな。まぁ、そりゃ、付き合った翌日だし、クリスマス当日だしデートしたいよな。そういえば、夏芽とデートの約束していないな。というか、商店街の打ち合わせに参加した日に夏芽は『当分、迅くんの家で寝泊まりします』と言った。その結果、夏芽は色々荷物を持ってきて、オレの家……と言っても両親もいるが……から学校に通ったりしていた。クリスマス会の打ち合わせの為、学校で寝泊まりしている事もあったけど。


「毎日が……」


 『毎日がデートみたいなものか』とつぶやこうとすると、『麻実センパイ、それは食べちゃダメで……』とお昼になろうとしているにも関わらず、夏芽が寝言を言っていた。寝顔もかわいいな、やっぱり、夏芽が好きだなぁと改めて思っていた。オレの『好き』は恋愛感情の好きがメインだが、もちろん、その中には後輩として好きや、友だちとして好きの感情もまだ少し残っている。


 出会った頃から夏芽と今のように仲が良かったわけではない。最初はおそらく、というか確実にかなり悪い印象だったと思う。なぜなら、何度も『キモッ』とか『モテなさそう』と罵倒されていたからだ。


「……でも、その『キモくてモテなさそうな男』が今の夏芽の彼氏なんだもんな、世の中何があるかわからないよな」



 夏芽の前髪が崩れていたので、少し触って直した。いや、まだ寝ているから、また崩れるか。今、ふと思い出したが、久賀が寝ぼけてオレに向かって、『彼女であるウチに……』と言ったことがあった。あの時はまだ誰にも恋していなかったし、まさか、学校でクリスマス会があるなんて思ってもいなかった。結局あれはなんで久賀はオレを彼氏と思ったのか……。クリスマス会の途中に久賀は『大阪に来た目的は儚く散ったけど、こっちでできた親友に彼氏ができたから文句はない』と言っていた。おそらく久賀の目的はオレと以前のように仲良くしたいというものだったのだろう。いや、もしかして、オレと付き合いたかった……?

 そんなことはないか。


「あっ、迅くん、おはよう」

「もう昼だぞ、夏芽姫」

「姫じゃないー」


 夢の中で麻実さんと仲良くしていた夏芽が目が覚めた。クリスマス会の後、商店街の店主たちが実行委員に代わって後片付けしてくれていた。理事長と校長から、『知事から認可されてると言っても云々……』と怒られていた関係だ。片付け終えてから、夏芽は忠さんに『さすがに、広瀬の家にこれ以上お世話になるわけにいかない』と、梶原の家、つまり、鮮魚のはなまるの家に帰ってくるよういわれていた。夏芽も思うことがあるのだろう、悩みつつも明日までは迅くんの家にいる。ということで、夏芽は一つ屋根の下でオレや両親とともに二ヶ月近く過ごしていた。


「この家にわたしがいるのも今日までなんだね……」

「……、そうだな」

「最後の日くらい迅くんの夢みたかったー」


 恋人の関係にあると言っても、恥ずかしいことを言われると照れてしまう。


「うー、なんで、麻実センパイに迅くん盗られて、泣いているところに変な不良三人組に連れ去られそうになるところで目が覚めるかなー、もしかして、あの後、迅くんが私を迎えに来てくれ……」


 ないか、と低いトーンとしょんぼりした声で夏芽が自分の見ていた夢に文句を言っていた。変な不良三人組と聞いて、オレは麻実さん、多奈川さんと一緒に周った秋祭りを思い出した。今思えば、グラウンドで焚き木する案もこの秋祭りがあったからだろうなぁ。


「でもさ」

「ん? 何? 夢の中で私を捨てたセンパイ」


 出会った頃のような呼び方をされて懐かしいと思った。


「きっと、その状況なったらオレは策なく不良のもとに駆けつけるよ」

「まさかの不良側?」

「え? いやいや、夏芽側だよ」


 確かに、さっきの発言だと、不良の味方としてそこにいくともとれる発言だ。この場合、正しく言うなら、『夏芽のもとに駆けつけるよ』だったな。


「でも、あの不良のリーダー、私が中学入ってすぐの頃にナンパしてきた不良に似ていたなぁ。あーもう、思い出したらなんか腹立ってきた」

「かっちゃん……」


 思わず、秋祭りの時、多奈川さんと麻実さんをナンパした不良のリーダーの名前をつぶやいた。


「そうそう、あの『かっちゃん』って呼ばれている男!! って、なんでセンパイが知ってるの?」

「知っているというか、ほら、この近くに神社あるでしょ?」

「ありますね」


 夏芽はすごくご機嫌ナナメで怒っている雰囲気でオレの話を聞いている。多分、それがゆえに敬語なのだろう。そして、夏芽は機嫌が悪いとオレのことを『センパイ』と呼ぶ。


「あそこの秋祭り……」


 ここでウソ偽りなく言うべきか、麻実さんがいたことは伏せるべきか悩んで言葉に詰まった。


「焚き木の周りでカップルが同じお願いしたら叶うかどうかはわからないけど、この秋の間は幸せにいられるという秋山神社の秋祭りが、どうしました?」

「そのウワサって有名なんだ。オレが引っ越してきてすぐに女の子の友だち二人と秋祭り周っている時に、友だちに頼まれて、りんご飴買いに行っている間に二人ともその『かっちゃん』率いる不良に絡まれたんだ」

「その女の子って梨絵と別の子?」

「この時は久賀、多分、大阪にはいただろうけど、その事はまだ知らなかったし」

「ふーん、じゃ、センパイのクラスの友だち?」

「……、ま、まぁ、そんな感じ」

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