第十二話ー真実の薬二~好きという気持ち~ー
「とりあえず、商店街に明日……? 明日の授業とかどうするの……?」
「勉強道具は置き勉してるから大丈夫!!」
えっへんとでも言いたげに胸を張る久賀に梶原さんの受験生二人。
「いや、誇るな!! 久賀に梶原さん!! お前ら受験生だろー!!」
「というか、明日から学校休みですよ。この学校、テスト期間終わった後とか行事終わった後って授業もないし、登校も自由なんですよ。まぁ、部活は大会前が多いから、練習に集中できてありがたいとはよくいいますけどねぇ」
「へぇ、えらくゆるいな。ホントにここ大丈夫か?」
「さぁ? 理事長が変わって学校の方針が大きく変わったばっかだし」
「でも、ということは、次、何もない生徒が登校するのはいつ? それが遅いと宣伝もできないし、クリスマス会に参加せずに帰る人も出てきそう。ほら、
多奈川さんの心配することももっともだ。クリスマス会があるらしい、これは全校規模で噂になっている。そして、早めの期末テストも終わっている。だが、クリスマス会に期待はされていない。そして、各々クリスマスの予定はあと一ヶ月ほどの今、そろそろ予定を立て始めるだろう。
「夏美センパイの言うこともわかりますよねぇ。わたしだって、恋人がいるなら、恋人と過ごしたいし……、恋人とまではいかなくても、今年は気になる人と過ごせそうだし……」
「……ん? 梶原さん、最後の方なんて? ……というか、いまさらだけど、夏芽って呼んでもいい?」
「いいですよ」
「ありがとう~夏芽、好き~」
「わたしも好きです~」
「迅くん?? 夏芽ちゃん??」
そういえば、理事長が置いていった飲み物を飲んだ後、すぐ、麻実さんが『ちょっと出かけてくる』と言ったきり不在だ。てっきり近くの自販機にジュースかコンビニにおやつでも買いに行ったのかと思っていたが、それにしては長いな、と他のメンバーと話そうかと思っていたところだ。
「ただいまー」
麻実さんが髪の毛を濡らして帰ってきた。
「え? どこ行ってたの?」
「近くの銭湯だよ。あ、そうそう、迅くん、夏芽ちゃん、なんか変なこと言ってここのメンバー困らせてないでしょうね?」
「あ、はい、ゴメンナサイ」
「それじゃ、今からあたしがウソみたいなホントの話するから、聞いてね。あ、他のメンバーも」
麻実さんが話した内容を端的にまとめると、理事長が置いていった飲み物は試験的に作っていた薬だ。どんな薬かというと、同じカップで飲んだ人間同士は薬の効能が切れるまでずっと本音でしか話せないようになる。
「ま、犬猿の仲みたいな……? え? 2人ともなんでそんな顔赤いの!?」
「いや、あれが本音なんだ」
「そうですか……」
「アハハ、ごめん、私が恋人という単語出さなかったらこうはならなかったと思う」
「なっちゃん、事の経緯を教えて」
麻実さんが静かに低い声で多奈川さんに聞く。
「なるほどねぇ」
「で、こう今、二人は薬のせいでラブラブなのね。そのくらいのイチャイチャなら許そうか。万が一、行為に及びそうになったら迅くんは隔離ね」
「隔離してもこの特別棟内だと夜這いするんじゃないの?」
「あ、うん、さっき、理事長にそうなる前に本棟に隔離することの許可を得たから」
「なんで理事長が出てくるの?」
「ん? さっき会ったから」
多奈川さんと麻実さんは今後、この薬のことを、『真実の薬』と呼ぼうと思った。結局、学校泊まりの初日は『真実の薬』のせいでグダグダだった。
「ん、ん――! んえ? な……ん………??」
オレの隣には夏芽がいた。オレには昨日の意識があまりない。学校に泊まり込んだものの、あまり実りのない夜だった気しかしない。ただ、梶原さんと何かあって、『夏芽』と、出会った頃は呼ぶな!! と言っていた名前呼びをしてもいいとなったことくらいしかはっきりとは覚えていない。ただ、その前後に関しては微妙だ。どういった流れで名前呼びを許してくれたのかは。
「おはようございます、先輩方に迅くん」
「おはよー!! 昨日はずっとイチャコラしてたね、迅くんと夏芽ちゃん」
久賀と多奈川さんはニヤニヤしつつ、少し残念そうに挨拶をした。
「え、迅センパイ、わたしに手を出してないですよね……?」
「朝の第一声がそれかい、オレ、どんだけ信用ないんだよ」
「信用はしてますよ、どちらかというと手を出してほしかったような……」
「え?」
「はいはーい、麻実さん権限で、本日は、迅くんは夏芽ちゃんとは別行動だよー」
「まったく理事長もやっかいなものを置いていったなぁ」
「ん? 私がどうかした?」
そこに現れたのは斉藤理事長本人だった。
「いやぁ、悪い悪い、真実の薬、ここに忘れていったけど、もう飲んじゃったらしいね。どうだった、効き目は?」
「ばっちりでしたよ、理事長、効きすぎなくらいに」
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