第九話ークリスマス会実行委員二~リーダー決定と演目決定~ー

 特別棟。

 

 そういうと特別感があるが、オレもこの学校に入ってそろそろ二か月は経つわけで徐々に理解してきた。


 一言でいうと『もう普段の授業で使わないような教室が集まっている棟』である。実際、普段の授業で使うこともある柔道場も本館にあるし、剣道場も体育館も講堂もすべて本館に移ってきているらしい。ただ、今、カギを受け取った準備室を通らないと特別棟には行けない。


「なんでこんな棟、残してるんだろう……」


「それはこのクリスマス会のためですよ、センパイ」

「ん、あ、そうなんだ」


 この子は誰だ、そして、『センパイ』と呼ぶということは中学生だろうか。鍵を開け、特別棟の準備室に入った。オレ、多奈川さん、麻実さん、先ほどの声かけてきたおそらく中学生に、久賀。え? 久賀? そうか、久賀も先生がクリスマス会のこと話している時に誰かに話しかけたのか。


 成長してるんだな、久賀も。


 というか、オレが久賀を知らなさすぎるのか?


「なに、ぼんやりしてるの? 迅くん」

「あっ、いや、なんでもない」


 オレを除く四人は適当にイスに腰かけている。


「あーおなかすいたー。迅君、はやく食べようよ」

「そうだな、話すのは食べながらでもできるからなぁ、というか、なんで久賀が?」


 ……、なんだこのアウェー感。男子一人に対して、女子四人。本来男子ならば喜ぶところだろうが、オレにはそうはできなかった。


「ちなみに言いますけど、梨絵とわたしは、立候補でクリスマス会実行委員になったんですからね、センパイ」

「あのさ、オレ、キミの名前も知らないし、キミのこと教えてほしいな」

「え、ここでナンパ? キモっ」


 多奈川さんと麻実さんにヘルプを出そうと思って二人を見ると、『うわぁー』とひいてるのがわかった。


「違うよ、単純にこれから二か月くらいは面と向かって話すわけだし」

「しかたないですね、わたしは梶原カジハラ、梶原 夏芽です。間違えても夏芽とか呼ばないでくださいね」

「オレは広瀬、広瀬 迅な、よろしく」


 その流れに乗って多奈川さんと麻実さんも自己紹介した。果たして、このメンバーでクリスマス会無事成功できるのだろうか、少し不安になりつつある初日の昼休みであった。




 五時間目、六時間目と授業を受け、オレ含む高校生組のクリスマス会実行委員の三人は部活に入っていないから、そのまま特別棟の準備室へ向かった。準備室のカギは高校生しか管理してはいけないから、なぜかオレが代表して持っていた。というか、なんというか、このままだとこの実行委員会の代表にされそうなんだけど。


「久賀と梶原さんって部活に入っていないのかな……?」

「なーんで、センパイの頭の中ってわたしたち後輩のことばっかなんですかね? わたしも梨絵も帰宅部なんで、クリスマス会の実行委員ですよ」

「そうか」

「こんなモテなさそうな男が実行委員だなんてやだなぁ」

「おいこら、モテないのは事実だけど、変な伝統のせいだからな、オレが実行委員会なの」

「あー、先生がクリスマス会の発表した時に真っ先に誰かに話しかけた人が実行委員会の伝統?」

「おい、こら、久賀、なんで、お前がその伝統知ってるんだ、久賀もオレ同様転校生だろ」

「アハハ、夏芽から聞いてたから」

「それよりもなんですか? センパイ、お昼から梨絵とのやりとり見てますけど、なんで、『久賀』って呼び捨てなんですか? ふつう、こんなにカワイイ梨絵のことなら、『久賀ちゃん』とか『梨絵ちゃん』って呼ぶでしょうに、……の前にわたしは名前聞かれて、その後先輩方の紹介聞いて知りましたけど、それよりも先に名前知っているし、親しげだし、梨絵もセンパイには気を付けてよ!!」

「うん」

「いや、久賀ぁ!! 裏切るなぁ。この中で一番付き合い長いの久賀だろ!!」


 事情を知っている……のか? 多奈川さんが言った。なんだろう、少しだけさみしそうな口調に感じた。


「もしかして……、夏芽ちゃん、迅くんのこと好きなの?」


 ごめんなさい、多奈川さんはただ茶化したかっただけみたいだった。


「な、なにを言うんですか!? そんなバカなことありません!!」

「だって、その否定の仕方に、顔真っ赤だよ」


 『顔真っ赤じゃないです!!』と否定する梶原さんを不覚にもカワイイと思ってしまった。


「はーい、迅君も夏芽ちゃんもイチャつかないで、やることやる!! まずは、何をどうするから考える」

「そうなんだよな、何をするかなんだよなー。ベタに花火でも打ち上げる?」

「脳内お祭りの迅くんはさておき……」

「ちょ、多奈川さん!? 名案だと思うんだけど?」

「なっちゃんも迅君いじりだしたか。いや、そうじゃなくて!! まずはリーダー決めでしょ」

「あぁ」 


 麻実さんの提案に皆うなずいた。これは満場一致で麻実さんがリーダーだな、うんうん、とオレは首を縦に振っていた。


「ここはリーダーは公平にじゃんけんで……」

「いーや、ここはオレが!!」


 『オレが!!』と言った時にホコリが鼻に入ってきてくしゃみが出そうで出なかった。そのため、それ以降の言葉がうまく出なかった。


「え?」

「さすが迅くん」

「さすがですよね、夏美先輩」

「こんな男がリーダーだなんて……」


「いや、あの、オレの話を聞いてくれ!! オレが思うに麻実さんが適任と思うって言おうと思ったんだ!! 断じて自己推薦ではない!!」

「ふーん、そうやってめんどくさい役職をになすりつけようとするんだ」

「麻実さん、さっきまで仕切ってたじゃないか……、くそぅ、うぅ、やるよぅ、クリスマス会の実行委員のリーダーやりますよ」

「なんで、なんで、センパイなんですか!!」


 特別棟の準備室を開けてから、皆、準備室にいることにはいるが、昼休みと違い、麻美さんは机の近く、多奈川さんは麻美さんの近く、久賀は窓際、梶原さんはストーブのそばにいた。オレも暖を取りたいからストーブに近づきつつ話をしていた。


「まぁ、リーダー云々の話はさておき、実際何するかだよなぁ……」

「ちょっと迅センパイ!? さっきからわたしのことスルーしてません!?」

「してないよ」

「してますよ!! センパイのことけなしてるのになんでスルーなんですか!! ふつう怒るんじゃないですか!!」

「ちょっと夏芽ちゃん!! なんで迅くんのことけなすの!! せっかくこうやって知り合えたんだから仲良くしないと!!」

「ありがとう、多奈川さん。というか、梶原さん、オレのことけなしてた?」


 むきーっと怒ったような素振りを見せて一歩下がる梶原さんだが……。


「危ない!!」


 オレは思わず、梶原さんを突き飛ばした。なぜなら、そこにあったのは暖を取るためにつけているストーブだ。


「何が危ないんですか!? そんなにわたしに触れたいんですか!?」

「いや、そこにストー……」

「ねぇ、夏芽ちゃん? 迅くんは夏芽ちゃんがケガしないように、夏芽ちゃんがストーブに触れて火傷しないように突き飛ばしたんだよ? わかるよね? 迅くんはそんな下心なく、善良な心で関わってるんだよ」

「はい……」


 多奈川さんに怒られてしおらしくなる梶原さんを見てまたもや少しカワイイと思ってしまった。もしかして、オレ、梶原さんに惹かれている……? とりあえず準備室のイスに五人は座った。


「で、どうするかだけどさ」

「フォークダンス!!」

「いや、小学生の運動会だよ、それ」

「えーありだと思うけどなぁ」

「ストーブ、暖かいなぁ」

「麻実さん!? 会議中は集中してよ!! あ、ストーブで、思いついたんだけど、グラウンドの真ん中でこの前の秋祭りの神社みたいに焚き木で火を起こして、この実行委員と有志でフォークダンスをオープニングセレモニーとしてやって後は自由とかどう?」


 オレの提案に『うーん』と否定的な四人だ。しかし、今日はこれ以上案がないので、仮決定となった。

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