第五話ー秋祭り一~地域指南~ー

 学校は土日以外、基本的にある。それは当たり前か。


 そんな今日は土曜日。今日は街の散策に出るか。いまだにこの街での遊びがいまいちわからない。付近にこれといって遊ぶスペースや娯楽施設があまりない。少し歩けば商店街はあるけども。そこにピロンと1つスマホがwireの通知音を鳴らした。


 麻実さんからだ。なんだろう?


 要約すると、まだ街に慣れてないであろうオレにここでの遊びを一つ教えようだった。麻実さんと遊ぶことにした。


 待ち合わせ場所は、駅前の神社だった。


「おつ~広瀬くん」

「よっす、麻実さん」

「意外とラフだね」

「ラフな格好が好きだからね。まぁ、母さんは友だちと出かけるならもう少しマトモな格好しろってうるさいけどね」

「そっちもだけど、あたしの言ってるのは、話し方のこと」

「話し方?」

「いや、第一声思い出して」


 第一声?  オギャーオギャー?  それはさすがにさかのぼりすぎか。でも、今のやりとりでおかしなところはなかったよな。


 まさか麻実さんの第一声? 


「やっぱりオギャー?」

「え?」


 プッっとツボに入ったようで、麻実さんの笑い声が神社中に響き渡った。


「やっ、クスクス、笑かさないで、お願い」

「え?」

「いや、第一声って、今の状況の第一声だよ」

「よっす?  おかしかったかなぁ」

「いや、いいよ、それで。おかしくないよ。おかしいのは第一声って言われてオギャーって答えること」

「だってさ、今のオレ的に変なところなかったからさかのぼるとオギャーまでいって、それだと変だと思って、ふと、麻実さん側の第一声かなぁと思って、考えるとそれでもやっぱりオギャーだったから」

「ふ、不思議な思考回路しているね」


 麻実さんはまだ笑いが治まらない。


「いや、そろそろ笑い終わろ。そんな変じゃないよ」

「そうだね、早くしないと時間なくなっちゃうもんね、ヒー」


 麻実さんが笑いを止めるために、『ヒー』と言ったことでオレももらい笑いするところだった。


「ふー、ここでの遊び教えるってことだったよね。だいたい駅前のカラオケとかボーリングになるなぁ。買い物は電車で市内に出ないと不便だし、一応、南と東に商店街あるけど」


 あっ、やっと本来の目的教えてくれた。


「駅前かぁ。え、ちょこちょこ散歩してたけど、駅前にあったけ?」

「あぁ、こっちの駅前じゃなくて、商店街の近くの栄えてる方の駅のほうだ、ごめん。ん、まぁ、ここら辺の遊びはこんな感じかなぁ」

「大人になってもバーとかこの辺なさそうだもんなぁ」

「ハハッ、大衆居酒屋ならけっこう、こっちの駅前にも栄えてる駅前にもあるんだけどね」


 ふと、神社内を見まわした。来た時は気にしてなかったが、神社の中央に焚き火の用意があり、そこまで多くはないが、露店の用意している。今も、テントの抑えが弱い!!  と親方みたいな職人さんが叫んでいた。


「そういや、今日、ここでお祭りでもあるの?」

「ん、あー、えーと、あっ、秋祭りだね」


 秋祭り。東京にいた時にも少し離れた大きな神社で豊作祈願で焚き火がされるだけのイベントがあった。中学一年生の時に好きだった女の子に、『秋祭り一緒に行かない?』と勇気を振り絞って聞くと、『ごめん、彼氏がいるから』と言われて、その日一日中泣き明かしたことをふと思い出した。まぁ、この思い出が初恋だけど。


「ふっ」

「どうしたの?」

「そんな遠い目して」

「や、まぁ、東京でも秋祭りあったんだけど、小学生の頃から好きだった子を誘ったら、彼氏いるからと断られたことをふと思い出したんだ」

「ハハッ、それは遠い目をしたくなるね」

「それがさ、同じマンションの女の子でさ、彼氏は年上と来たら泣くしかないでしょ」

「そうだねぇ、でも、まぁ、それも思い出。それがあったから、今の広瀬くんがいる。違う?」

「それはそうだな。あぁ、別にまだその子が好きとかはないよ」

「なーんだ、まだ好きとかいうと思って今の回答したのに。この後、カラオケでも行く?」

「いいねー、upnumberのレモンパイ歌いたい」

「お、いいねぇ」

「じゃ、予約しますかー」


 麻実さんはスマートフォンを取り出し、慣れた手つきでカラオケ店舗のアプリを開く。


「くそーさすが土曜日。夜までカラオケ予約いっぱいだ。ボーリングはどうだ。ダメだ、ボーリングは貸切の日だ」

「この辺の住人はヒマなのか……」

「まぁ、娯楽がそれくらいだもんね。でも、来年の一月にカラオケの近くに大型ショッピングモールできるよ。でも、どうしよ」

「夜に……秋祭り一緒に行く?」

「ふふっ、言いそびれてたけど、ここの秋祭りの焚き火で一緒のお願い事したカップルは少なくともこの秋は幸せに過ごせるっていう迷信があるよ」

「カップルじゃないじゃん、オレら」

「それもそうだね、いいよ」

「それじゃ、何時くらいからがいいんだろ」

「そりゃ、暗くなりだしてきた午後七時頃でしょ」

「了解、午後七時ちょい前にここら辺にいるよ」

「はーい、んじゃ、また秋祭りで~」

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