第四話ー学校案内ー

 その後、全校集会があった。学校での予定が終わり、多奈川さんに止められるかと思ったが、止めたのは多奈川さんではなく。別のクラスメイトだった。


「広瀬くん」

「はい」

「やだなぁ、初対面と言ってもクラスメイトなんだから、そんなにかしこまもらないでも」


 この女の子とは仲良くなれそうな気がする。


「あたしは麻実マミ 茉弥マヤ、だいたいの人は『まみ』か『まや』って呼んでるね」

「すげー苗字だな」

「アハハ、よく言われるよ、せっかく同じクラスメイトになれたんだし、これも何かの縁だし、この学校案内しようか?」

「え、いいの?」

「いいよーまぁ、学校案内は名目上だけどね、あたし、けっこう忘れがちでさ、この夏休みの間に教室の配置忘れてないか、確認したいのもあるし」

「あ!! それわかるかもなぁ、オレもさ、中学の時、理科準備室に行ってくれと言われて、音楽準備室に行ったもん」

「うーん、まぁ、似たようなものかな」


 麻実 茉弥さんか、いや、こう心の中で呟いても、すごい名前だよなぁ。


 結局、麻実さんに学校案内をしてもらった。だいたいの特別教室はわかった。そして、意外なことにこの高校にエスカレーター式に進学できるように中学が併設されていることを知った。少なくとも、このことは久賀に『学校どうでした?』とか聞かれても言わないでおこう。そして、そんなことを考えつつ、オレはとある違和感を覚えた。


「麻実さんさ」

「ん?」

「なんで、学校案内してくれてるの? けっこうしっかり配置覚えてるし」


 そこは誰もいない廊下だった。麻実さんはオレのあごをクイッとした。そして、耳元でささやいた。いや、オレ、隙ありすぎだろ。


「ここで、あたしが広瀬くんにって言ったら?」

「それは、うれしいけどお断りするかなぁ。麻実さんがいい人なのはこの学校案内を通じてわかったけどさ、でも、それだけで、恋人という特別な存在にはできないかなぁ」

「ハハッ、ひとめぼれしたっていうのは冗談ね、こんな冗談に今みたいに本気で答えてたら、しんどいよ、ラフに行こう、ラフに」

「なんだよ、ちょっと真剣に考えた時間を返してくれよ」

「時間は有限、有意義に使わないとね」


 『そうそう』


 麻実さんはスマートフォンを出した。


「wire交換しようよ」

「おっ、宝賀高校での初友だちだ、いや、二号か?」

「二号ってどういうこと?」

「や、クラスメイトに多奈川さんっているじゃん? あの子とどうやら知り合いのようなんだよなぁ」

「でた、方言!!」

「え、出た?」

「『じゃん』は方言だよ。知らんけど」

「ほへー」


 この会話の冒頭に出てきたwireというのは、スマートフォンのアプリで人と人の縁を線としてつなぐということで『線』を英語にしたwireという名前のコミュニケーションツールだ。というか、関西の人ってホントに『知らんけど』って使うんだ。そんなことを思いながら、二次元バーコードを表示して、wire上で友だちになった。


「あのさ、もし、麻実さんがイヤじゃなかったら、wireだけじゃなくて、電話番号とかも教えてほしい」

「ん? なんで?」

「やっぱ、嫌だよね。たまたまクラスが同じだっただけだし」

「いやいや、全然嫌ってことはないけど、なんでかなぁ、と思って。だってさ、だいたい、wireのチャットで文字を打てば済むし、急用でも無料通話をかければすむのにと思ってさ」

「そのー、言い方悪いけど、バックアップって感じ? もし、なんかあってwire消えた時にやっぱ友だちだって思いたいからさ」

「そっか。いいよ、はい、これがあたしの携帯電話番号。じゃ、またね、広瀬くん」

「おう」


 麻実さんと友だちになった。なんだかんだ、オレのスクールライフは順調じゃないか。

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