第3話ー自己紹介ー

 編入試験も無事クリアし、2学期から宝賀高校に通うことになった。宝賀高校自身、家からそれほど遠くもなく、徒歩で行ける距離だった。転校ということもあり緊張でガチガチだった。別に早く来いとか少し遅めに来いと言われたわけでもなく、普通にほかの生徒と同じ時間に登校で大丈夫と言われた。1年の職員室に挨拶をして、職員室で待機するように言われた。


 先生の会話を聞いている限り、オレが今日、転校してくることは聞かされていなかったようだ。


 え、大丈夫? 


 いろいろとこの高校心配なんだけど。ガララッと1年生の職員室の扉が開いて、東校長が来た。


「すまん、この子、今日から転入生の広瀬 迅くんだ」

「はい……。校長もう少ししっかりしてくださいよ」


 学年主任らしい人が校長に意見していた。学校のわりにアットホームなところなんだな、と思った。


「まいったなぁ、どこか席に余裕のあるクラスあったけ?」

「はいはい、私のクラス、この夏休みに1人退学したので、余裕あります!!」

「そうだったなぁ、5組にしとくかぁ。学力的にも普通コースの学力みたいだしな、校長のくれた資料によると」

「どのくらいの学力なんですか?」


 職員室にいた先生、6人が校長の置いていったオレに関する資料を目にしている。……一部しか用意してないのかよ、校長。いや、しかし、転入生の資料1部を6人の先生がこぞってみるってなんか面白い光景だな。


 そこにキーンーコーンと予鈴が鳴り始めた。


「さ、広瀬くん、行こうか、キミの新たな学び舎のクラス、1年5組に」

「はい」


 1年5組と書かれた教室の前まで行くと、オレは、柱のそばで待機しているように言われた。あれだろう、転入生の広瀬くんと紹介されるまでここで待機するのだろう。


「おはよう。今日は日直はなしなー。と、あーと、夏休みの宿題はその教科の先生の授業に直接提出だな。えーっと、あと……」


 宿題ってどんなのが出ていたんだろう。別にマジメというわけではないが、少し気になった。数学とか苦手なんだよなぁ。と苦手教科やオレの得意教科ってなんだろう、と少し考えていた。


「あっ、そうだ、転校生が来たぞ」


 転校生? とクラス中がザワザワしている気がした。ガララと戸を開け担任の先生が手招きした。オレがクラスに入ると、ザワザワしていたのが一瞬でやんだ。ごめんよ、こんな一般人で。担任が、自己紹介してと小声で言った。


「広瀬 迅です。よろしくお願いします」


 それだけかよー!! と一部の生徒にはツッコまれたが、ごめん、自己紹介って何言えばよかったけ? 東京の高校でなんて言ったけ、と考えていると。


「まぁまぁ、広瀬も緊張しているんだ。それくらいにしてやりな。席は多奈川の横でいいか」


 多奈川? どこかで聞いた記憶が……。ボケ~としていた多奈川さんが『すいません、英語の宿題やったけど忘れました』といった。


 そこでクラスは爆笑が起こった。


「多奈川、今は転校生の話だし、私の教科は現代文だ。現代文の課題はやったんだろうな?」

「現代文はテキトーにやりました」


 はぁ~、と担任の先生はため息をついた。そして、言葉を続けた。


「ほら、広瀬もぼやっとしてないで多奈川の横の席へ行く。今の発言で場所はわかっただろう?」

「えぇ、まぁ」


 多奈川さんがそこでオレを確認して、あっ!!と大きな声を出した。


「どうした、多奈川?」

「なんでもないです」


 そういいつつも多奈川さんを見ると、嬉しそうにしていたし、そこでオレは、『この前の多奈川さん』であることに気づいた。多奈川さんの席の横に座り、担任の話をきいていた。



 どうやら宝賀高校はかなりゆるい高校のようだ。授業の時に宿題を集めるのがめんどくさいから今、現代文の宿題回収する、と担任が言って現代文の宿題を回収していた。やはりというべきか、どこの高校でもあるのだろうが、宿題忘れた人はいた。


「宿題忘れたやつらは明後日の現代文に間に合わせろよー」

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