第二話ー編入試験ー

「そうだ、迅」

「ん?」

「今日、宝賀高校に編入試験受けてこい」

「急すぎだろ」


 引っ越してまだ片付けも終わりきってない二日目に父さんがオレに無茶ぶりをした。いや、この父の無茶ぶりも今に始まったことではない。無茶ぶりと言っても、できなくても困らない無茶ぶりはしない。逆にできないと困る無茶ぶりしかしない。たとえば、今から背負い投げできるようになってこいとかではない。この父の無茶ぶりは、『その日』に『大切なこと』をしてこいというものだ。今日のこれの様に。


「そもそもどこにあるんだ、宝賀高校」

「大丈夫、父さんも一緒に行くから」


 『昨日にでも調べる時間はあっただろ』と言われるかと思ったけど、母さんが笑いながら返事をしてくれた。


「いや、何回も聞いてるけど、父さん、仕事なにしてるの?」

「……教師……」


 父さんが恥ずかしそうに、自身が教師であることを教えてくれた。いや、なんで、恥ずかしそうにするんだよ、そこは誇らしげにしてくれと思った。


「そっか、父さん、先生なんだ」

「そ、そんなことより、ほれ、宝賀高校に向かうぞ」

「服装どうするの? え、前の高校の制服?」

「私服で大丈夫だろう」


 いいのだろうか、と思いつつ、すこしマシな格好に着替えて、宝賀高校に編入試験を受けに行った。


広志ヒロシ、久しぶりだな」


 父さんは出迎えてくれた四十代半ばくらいの男性に声をかけた。


修司シュウジこそ、変わりはなさそうだな」

「あぁ、こいつがオレの息子の迅だ。こいつの編入試験とオレの面接同時で大丈夫か?」

「迅くんは、理事長室で編入試験を受けてくれ」

「え?」


アズマ校長、迅くんを理事長室に案内してやってくれ」


 出迎えた男性がそう頼むと、四十代前半くらいに見える男性がオレを学校内へと案内した。いや、校長というには若すぎるよな。と少し怪しんでいると。


広瀬ヒロセくん、ボクが校長というには若すぎると言いたそうな顔をしているね」

「まぁ、そうですね」

「というか、さっきの人は東さんよりも上の地位なんですか?」

「あぁ、彼は理事長だよ」

「え?」

「ははっ、きっと、広瀬くんはいい生徒になるよ」


 そうして、理事長室に案内された。


「もうすこししたら、斉藤理事長も戻ってくると思うよ」


 正直、転校とかしたことないからわからないけど、こういうときってふつう、オレがお世話になる学年の、どんなに上でも学年主任くらいまでじゃないのか? 理事長や校長までかりだすようなことなのか?


え?


 しばらくすると、さきほどの斉藤さんが戻ってきた。すこし、談笑してから、いや、なごめるか!!  相手は学校の理事長だぞ? トップだぞ? 


 編入試験を始めた。


 試験自身はそこまで難しいこともなく、中学の勉強の試験と斉藤理事長による前の高校はどうだったかといった聞き取りだった。いや、これ裏口入学じゃないか? と少し心配になった。

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