第6話ー秋祭り2~ナンパ~ー
オレは家に戻り、母さんに『高校の友だちと秋祭り行くから夜出かける』と伝えた。夜になり、秋祭りの時間だ。
秋と言っても、まだ9月の序盤だ。ほぼ夏だ。甚平で行こうかとも思ったが、まぁ、もう秋だしな、と言い聞かせてTシャツにズボンの昼間と同じ格好にした。
「お待たせ~広瀬くん」
「おつ……?」
そこにいたのは、浴衣姿の麻実さんだ。思わず生唾をゴクリと飲み込んでしまった。
「見惚れた?」
「うん」
「ありがと」
いや、カワイイとは思っていたけど、浴衣とメイクですごくカワイイ。失礼な言い方をするけど、浴衣マジックってすごいな。
「あっ、迅くん」
「多奈川さんじゃん、秋祭りってけっこう人くるんだね」
「夜店も出るからねぇ。なっちゃんも一緒に回る?」
「いいじゃん、多奈川さんも周ろうよ!! 2人よりも3人のほうが楽しいよ」
「それじゃ、うん、一緒に」
多奈川さんは少しさみしそうに一緒に周るのに同意してくれた。これ、別に強制してないよな。
「やーよかったねぇ、広瀬くんも、なっちゃんにあたしで両手に華だ」
「まぁ、華と言えば華ではあるけど、この状況だと両手に友だちじゃない?」
「友だち……なんだ、2人は」
「そうだよ、転校してきた日にいろいろ教えたしねぇ」
そっかそっか、と少し安堵した感じに多奈川さんがいた。
「なっちゃん?」
そのすこし変わった様子に気づいた麻実さんは多奈川さんに声をかけた。
「ううん、なんでもない」
「そっか」
「というか、麻実さんと多奈川さんって友だちだったんだ」
「そうだよ。なんていうかなっちゃんって妹っぽくてほっとけないからさ」
「いや、同級生だよ?」
「私、妹キャラだったの!?」
「ほーらー多奈川さんもそう言ってる」
「迅くん、りんご飴買って?」
上目遣いで多奈川さんが頼んできた。あっ、これ確かに妹キャラだわ。
「あいよ、りんご飴ね、麻実さんはいる?」
「じゃーあたしは、いちご飴」
りんご飴の屋台でりんご飴といちご飴を買った。2人には神社の中の空いていたベンチで待ってもらった。
2人の待つベンチに向かおうとすると、20代前半のやんちゃそうな3人組の不良が多奈川さんと麻実さんに声をかけていた。
-姉ちゃんら1人?-
-おい、かっちゃん。どうみても2人だろ-
-俺たちと遊ぼうぜ-
麻実さんが多奈川さんを守るように手を横にかざしていた。多奈川さんは小動物の様に怖がっていた。でも、あのベンチで待つように言ったのはオレだし、ナンパされてるのはオレにも責任があるよなぁ。オレは勇気を振り絞って3人組の不良に声をかけた。もちろん、ケンカする気など毛頭ない。どれくらいないかというと、ハゲの毛根ほどない。ことはエレガントに穏便に済ませたい。
「あの~すいません、まぁ、りんご飴といちご飴をあげますので、お引き取り願えませんか?」
いや、これで引き取ってくれるナンパ野郎がいてたまるか、と後で思った。
「あ? ふざけてんのか?」
『ですよね~』と思いつつ、次の言葉を探した。
「いや、ホントは、そこの2人に買ったものなんですけど、なんか女の子に声かけてるからこれで少しは女の子気分味わえればなぁと思いまして」
しまった、さらにケンカを売ってしまった。
「よこせ!!」
え? ほしかったの? どうぞ、と手を差し出すと、りんご飴といちご飴を奪ってガリッと飴を食べ始めた不良たち。なんだ、そんなんで済むのか。そう思っていた。飴をかじっていた二人が、多奈川さんと麻実さんに、『ほら、欲しかったんだろ?』と言って渡そうとしていた。
「やめてください」
麻実さんがドスの聞いた声を発した。オレはというと、もうひとりの不良に殴られたところだった。
「いってぇな、殴ることないじゃないですか」
オレのぐうの音も出ない反論にひく……わけはなく、不良はニヤリとして、多奈川さんを無理やりつれていこうとした。多奈川さんを同級生なのに妹のようにかわいがっている麻実さんもつれていこうとしたが抵抗した。麻実さんが抵抗しているのを見て不良は、条件を提示した。
「おい、男と女!! この女を解放してほしければ、女は一緒に来い! 男は帰れ!!」
麻実さんはついていこうとしているのを見て、オレは止めた。
「ダメだ、2人とも何されるかわからない」
「でも!!」
「大丈夫、オレに策なんてない!!」
うおりゃーっと掛け声をだし、不良にタックルしようとした。不良はいとも簡単にオレを止めた。
「帰れ!! って言ってんだろ」
タックルの低姿勢のまま、蹴飛ばされた。そこに警察が来た。きっと長々この不良たちが多奈川さんと麻実さんに絡んでいるから誰かが通報したんだろう。
「女の子にナンパしている不良がいると通報受けてきたが、キミたちのことだな」
「げっ、ずらかるぞ」
「逃がすか」
警官が不良3人を追いかけていた。
オレ含め多奈川さん、麻実さんは周りの知らないおじさん、おばさんに、怖かったねぇとなだめられていた。いや、怖かったのは事実だけど。
見守ったり通報してくれたおじさんやおばさんから勧められたこともあり、不良騒動から落ち着こうとして、神社の近くの公園に流れてる人工河川の近くのベンチに3人で座っていた。
「ごめんな、2人とも」
「ん? なんで、広瀬くんが謝るの?」
「いや、もしかしたら、オレと一緒にりんご飴の屋台で並んでたら絡まれることがなかったかもだし……」
「大丈夫だよ、広瀬くんが自作自演であの不良を雇ったんじゃないなら」
バンッとベンチをたたいて、多奈川さんが怒った。
「迅くんは……、迅くんは……!! そんなことしない!!」
「わかってるよ、なっちゃん」
「麻実さんなりのちょっとした冗談でしょ? まぁ、どんなにお金があっても不良を雇おうとは思わないけど」
沈黙が流れた。別にこの沈黙が不快に感じないが、ふと言葉をこぼした。
「でも、今日はなんか大変だったし、なんていうかな、不良騒動を除けば、充実してたって表現が1番いいと思う。ま、不良のせいでその充実感ないけど」
「そうだね」
「うん、でも、迅くん、カッコよかった」
「ありがとう。ホントは不良に絡まれなかったらもっと楽しかったんだろうねぇ」
「そうだね」
「また遊ぼうね、迅くん」
『おう』と返してオレは家に帰る道についた。麻実さんも同様に帰路について、別の方向に向かっていた。多奈川さんは、ずっとオレと同じ方向についてきていた。
「いや、多奈川さん? 不良に絡まれて怖かったのはわかるけど、家の方向に帰ろう」
「え?」
「ん?」
「あっ、私、迅くんの家の近くなの。だいたい、5軒くらい隣」
「え?」
「もしかして知らなかった?」
「うん、初耳」
「迅くんのバカー!!」
多奈川さんは猛スピードで走っていった。意外と足速いんだな。
「ま、オレも帰るか。今日は疲れた。主に不良のせいで」
秋祭りは色々あったが、殴られはしたが、ケガはなく終わった。
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