一等星

@Shomu-0824

第1話

「夜空ってきれいだなー・・・・・・」


毎日病院のベットにいる僕は常にそう思っていた。


幼くして病気になり、いつ悪化して死ぬかも分からない。


毎日が退屈で仕方がなかった。


星空せらくん、もう21時になるから早く寝てね」


看護師さんはそう声をかけて、病室を出ていく。


僕はもう高校生なんだ。


なのになんで21時に寝ないといけないのか。


いつもそうは思っても言い返せずに眠っている。


言い返しても何にもならないと思うから。


布団に潜り目をつぶる。


だけど今日はすぐには寝付けなかった。


一度外の空気でも吸おうと窓を開ける。


窓から体を乗り出し、外を見ると遠くに病衣を着た女の子がいた。


こんな時間に何をしているんだろう?


病衣を着ているからきっと患者だろう。


疑問に思ったが気にせずに僕は眠りについた。


次の日もまた次の日もその女の子は同じ時間にその場所にいた。


毎日外にいる女の子に僕は少し興味を持ち、こっそりと病室を抜け出した。


病院の人にバレないように僕は外へと行く。


女の子の方へ近づくと彼女は座って空を見上げていた。


「こんな時間に何をしてるの?」


僕が声をかけると彼女は驚いたような顔でこちらを見る。


「星を見てるんだよ」


すんなり答えてくれた彼女は僕と同じくらいの歳に見えた。


「そういう君こそなんでここに来たの?」


彼女の問に僕はなんと答えるべきか考えた。


正直に答えるべきなのか。


考えた挙句、僕は正直に答えることにした。


「ここ最近、病室の窓から君の姿が見えてて、少し気になってね」


そう答えると彼女は手のひらを頭に乗せながら「まじかー!」と言う。


「バレないように来てたのに、まさかめちゃくちゃ見られてるとは」


彼女は焦る様子などもなく、笑いながら言う。


「そういえば自己紹介してなかったね、私は星夜さや。星の夜って書いてさやって言うよ」


星夜・・・・・・僕は彼女にとても親近感を感じた。


「いい名前だね。すっごい素敵だよ」


「ありがとう、君の名前は」


「僕は星の空って書いてせらだよ」


言った瞬間、彼女は弾けるような笑顔になった。


「えー! 星の夜と星の空ってめっちゃいい組み合わせじゃん! もしかして私たちって運命とか!?」


すごく楽しそうに話す彼女はまるで子供のようだ。


「たしかにすごくいいね。でも運命ってことは無いんじゃないかな」


僕の返しに、彼女はつまらなそうに、


「そこは運命だねとか言ってよー、星空くんつまんなーい」


僕はいまいち彼女についていけなかった。


彼女はまるで僕とは別世界にいるような人だ。


「僕はこういう人だから仕方ないです」


彼女は「はぁ」と小さくため息を吐き、空へと視線を移す。


僕も彼女の横に座り空を見上げる。


「すっごい綺麗」


今までは病室の窓から見ていたが、生で見る星はとても綺麗だった。


「夜の空って心が落ち着くんだよね」


僕も深く共感した。


なんでこんなにも夜の空は落ち着くのだろうか。


その後も僕らは話し続けた。


気がつけば時間が23時になろうとしていた。


「そろそろ戻ろっか」


彼女はそう言って立ち上がる。


僕は帰る前に彼女に質問をした。


「なんで君はそんなに明るくいられるの?」


僕がずっと感じていた疑問。


彼女も病気のはずなのに、何故こんなにも明るくいられるのか。


僕の場合はいつ悪化して死ぬかも分からない。


だから明るくいるなんて無理だ。


彼女はなんでこんなにも明るいのか。


「明日また同じ時間にここに来て! そしたら話してあげる!」


彼女はそう言って答えは言わずに、病院の中へと戻ろうとした。


病院に戻る前にこちらを振り返り、


「また明日ね! 星空くん! おやすみ!」


彼女と別れたあと、僕も病室へと戻る。


病室に戻るとすぐにベットに入る。


久々に長時間も話したので疲れてしまった。


そのせいですぐに眠りについた。


次の日も夜になると僕はこっそりと病室を抜け出す。


夜になると見回りの目も薄くなるので、抜け出しやすい。


昨日と同じ場所に向かうと、星夜はいつものように座っていた。


「今日も来たよ」


僕が声をかけると彼女は振り向き笑顔を見せる。


「待ってたよ、星空くん」


僕はまた彼女の横に座り、昨日と同じように星空を見上げた。


今日は昨日より天気も良く、空一面に綺麗な星たちが輝いていた。


僕らの間には無言が続く。


しかし、そこに気まずさなどは無かった。


「昨日君が聞いた事について話してあげる」


先に口を開いたのは彼女の方だった。


彼女は僕の方に体を向ける。


「星空くんはさ、人は死んだら何になると思う?」


彼女の口から出たのは昨日の答えではなく、僕への質問だった。


「そんな哲学的な質問をされても僕には分からないよ」


「例えば死んだらまた人間に生まれ変わるとか、動物に生まれ変わるとかもあるかもね!」


自分で質問しておいてノリノリになっている彼女に僕は、少し困惑していた。


「まあそんなことは置いておきましょう」


そう言って彼女は少し真面目な顔をした。


「これは私のおじいちゃんが昔言ってたんだけど亡くなった人はね、星になるんだよ」


「あー・・・・・・はい・・・・・・?」


僕はよく分からずぽかんとしていた。


「星空くん絶対何言ってんだこいつとでも思ってるでしょ」


僕の表情を見て思ったのか彼女は少し残念そうにしていた。


でも急に亡くなった人は星になるんだと言われても、信じることなんかできない。


そんな感じの話を僕も聞いたことはあるが、信じたことは一度たりともない。


「生きてる時に元気で明るかった人はすっごく綺麗な星になるの!」


「そうなの・・・・・・?」


いまいち彼女の話は理解できなかったが、熱心に話している彼女を無視することはできなかった。


「そう! だから私はいつでも明るくいたいの!」


そういう彼女の顔は笑顔に溢れていた。


その笑顔は空にある星よりも輝いているように見えた。


「星空くんももっと明るい人になろうよ!」


「僕はそういう性格じゃないんだ」


彼女の誘いを僕はきっぱり断る。


「たしかに君は明るい系じゃ無さそうだもんね」


彼女にしては珍しくすんなり諦めてくれた。


僕らはその後も星を見ながら多くの話をした。


好きな星座やなぜ星を見るのが好きなのかなど。


時間など忘れてしまうくらいに僕らは意気投合していた。


「やば! もう日付変わっちゃうよ!」


時計を見ると23時55分を指していた。


「もしバレたらやばいから早く戻ろう」


「そうだね! じゃあまたね星空くん!」


僕らは互いに手を振り自身の病室に戻っていく。


次の日もまた次の日も僕らは共に星を見た。


次第に僕はそれが日課になっていたのだ。


星を見ている時だけは、病気のことなど忘れられるからだ。


そして彼女との会話が楽しいと思えるからだった。


そんなある日、僕はいつものように待っていても彼女は現れなかった。


「何かあったのかな」


空に向かい僕は一人呟く。


彼女のいない今日はいつもよりとても寒く感じた。


『亡くなった人は星になるんだよ!』


ふとそんな言葉を思い出した。


空には多くの星。


まさか・・・・・・そんなことはないよな。


僕は一瞬寒気がした。


まだ会って数日しか経っていないのに、彼女が居なくなることに寂しさを感じる。


僕はいつもより早く病室に戻り眠りについた。


明日は星夜がいますように。


そう思いながら僕は眠った。


次の日彼女は何も無かったかのように、その場所にいた。


彼女がいるだけで僕はなぜかほっとしていた。


「星空くん昨日は来れなくてごめんね!」


第一声は謝罪の言葉だった。


「全然大丈夫だよ」


理由を深く追求しようとは思わなかった。


僕らは互いに病気持ち。


お互いそのことは重々把握していた。


だからこそ一日でも来ない日があると不安になってしまう。


彼女の様子を見るといつもとは変わらないように見えた。


「星空くんってさ、冷たそうだけど優しいよね」


「えっ・・・・・・?」


予想外の発言に僕はアホみたいな声が出てしまった。


「急にどうしたの?」


「昨日ずっと待っててくれたでしょ。私病室から見てたんだよね」


「待ったりなんかしてないよ。ただ空が綺麗だったから見てただけ」


僕は彼女の言葉を全て否定した。


優しいと言われるのがなんだか気恥しかったから。


「君は可愛くないねー」


「別に僕は男なんだから可愛さなんていらないよ」


僕の発言に諦めたのか彼女はため息を吐き、空を見上げる。


「そういえば星空くんってさぁ好きな人とかいないの」


空を見上げたまま彼女は僕に問う。


恋バナなんて僕はしたことがなかった。


「そんなのいないよ」


僕には人を好きになるという感覚が分からない。


今までに好きな人が出来たことがないからだ。


「逆に君はいないの? 好きな人」


そっくりそのまま僕は彼女に質問し返した。


「私はねー・・・・・・君だよ」


「え?」


僕は思わず固まってしまう。


「なーんてね! 冗談だよ! 本気にしちゃった!?」


彼女は僕の方を見て笑いながら言う。


「別に信じてなんかいないし。そういう嘘はやめといた方がいいと思うよ」


からかってくる彼女に向けて、僕は至って真面目に返す。


「ごめんごめん! ちょっとからかって見たくなってね」


僕は彼女のことなんか放ってほいて一人で星を見た。


少しして彼女が僕の横へとやってくる。


「星空くん! お互い元気になったらさ、もっと綺麗な星が見える場所で一緒に星を見よう!」


「いいよ、忘れていなかったらね」


僕らは元気になったら一緒に星を見る。


そう約束したのだ。


しかしその約束が叶うことはなかった。


約束した矢先の話だった。


君はいつもの場所に現れなくなった。


君が来なくなって1週間が経つ。


空には相変わらず無数の星。


どれもが美しく輝いている。


そんなある日、どの星たちよりも輝く星があった。


「君の言っていたことは、本当だったんだね・・・・・・」


その星を見て僕は呟く。


独りになった僕は、輝く星を見ながら涙を流した。

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