2−4
「お母さん、おはよう!」
キッチンに立つ母親が振り向く。
「昨日はよく眠れたみたいね。スッキリした顔してる」
志穂の顔を見て母親が言った。
「うん。なんだかイイ気分」
「よかったわね。早く食べちゃいなさい。遅刻しますよ」
志穂は心地良い空腹に急かされてトーストを頬張り、噛む暇も惜しんで牛乳で流し込んだ。
学校までの道もなんだか光り輝いているように見える。そう、志穂は生まれ変わったのだ。自分の手で未来を切り開く。誰も信用しない、誰も頼らない。昨日と違って足取りも軽い。
志穂は左手に下げているトートバッグを顔の前に持ち上げて、中を覗き込む。大丈夫。ちゃんと入ってる。志穂の未来を切り開くもの。
「志穂お!」
後ろから志穂を呼ぶ声がした、凛だ。志穂は立ち止まって振り返る。
「よかった! 今日は元気そうだね」
「うん、もう大丈夫。凛がボクのことどう思ってるかも分かったし」
「えっ、なに言ってるの?」
「もう嘘つかなくてもいいよ。ボクは一人で生きるって決めたから」
「ちょっと、どうしちゃったの?」
凛が志穂の目の前に立って志穂の顔を覗き込んだ。
志穂は、だらりと下げた左手に持つトートバッグの中に右手を突っ込んで、さっき確かめた出刃包丁を取り出すと、凛の腹に力いっぱい押し込んだ。
凛の目が大きく見開かれる。その顔のまま腹を押えて凜が崩れ落ちる。地面に赤黒い液体がじわじわと広がっていく。
地面に横たわる凛を無表情で見下ろしている志穂のスカートのポケットで、ぴろりんと着信音が鳴った。
志穂は人が集まってきて騒然となっていることなど全く気にしない様子で、ポケットからスマホを引っ張り出す。縁が引っ掛かって少し手間取った。待ち受け画面にメッセージ着信の通知が表示されている。志穂がロックを解除すると画面にポップが出てきてメッセージを表示した。
ーーお楽しみいただけましたでしょうか。よろしかったら高評価をお願いします。
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