イノセント・フェイク

２−３

　家に帰り着いた志穂は試しにまた履歴を表示させてみた。志穂は思わず画面に目を近づけて凝視してしまった。『郷庄南中学校二年Ｂ組の部屋』へのアクセス履歴がしっかり残っているではないか。それをタップすると、昨日見たのと同じサイトが表示された。志穂は背中に寒気を感じる思いがした。これは志穂にだけ見えるようになっているのか？　志穂の悪口がたくさん書き込まれたサイトを志穂にだけ見せるなんて、悪意を感じずにはいられない。

　真帆先生がいるときには履歴からこのサイトの痕跡を消し、志穂ひとりのときには表示する。そんなことが技術的に可能なのかどうか志穂には分からないが、志穂ひとりを追い詰めようとしているとしか思えない。なんで自分がこんな目に遭うのか。いくら考えても志穂に分かるはずもない。志穂は恐る恐る掲示板を見る。最新の投稿は今日の日付になっていた。

２０２✕／９／２２　まっぱ

ベロベロの奴、このサイト見つけたみたい。メイド喫茶やりたかったかきいてきやがった。

２０２✕／９／２２　ムサシ

中学でメイド喫茶なんて無理に決まってるじゃんかな。ベロベロが嫌われてるのは最初からなのにな。

２０２✕／９／２２　まっぱ

それな。存在自体がキモイんだよ。

　坂上は大丈夫だと思ったのに。全然悪意なんて感じなかったのに。裏ではこんなふうに思ってたなんて。本当に誰も信用できない。

２０２✕／９／２２　エドワード

あれで自分はカワイクてイイコだとか思ってたりするんだぜ。イイのはカラダだけだって。

２０２✕／９／２２　たま

まさか、アンタ知ってんの？

２０２✕／９／２２　エドワード

そんなワケないだろ。

２０２✕／９／２２　ムサシ

夫婦喧嘩は余所でやってくれ。ドーテーには羨ましすぎる。

２０２✕／９／２２　やみ

実は俺、ベロベロとヤッた。

　なに言ってるの？　ボクは正真正銘の処女だ。こんなデタラメ書くなんて……

２０２✕／９／２２　エドワード

マジか！　よっぽど飢えてたんだな。どうだった？

２０２✕／９／２２　やみ

顔が見えると萎えるから、後ろからシてやった。デカい乳揉んだらよがりやがって。早く早くって急かすからアソコ触ったらあっと言う間に濡らしやがって。

２０２✕／９／２２　まっぱ

それで？

２０２✕／９／２２　やみ

ガバガバだった。とんだヤリマンだぜ。俺が言うのもなんだけど、あんなのとでもヤル男がいるんだな。

２０２✕／９／２２　ムサシ

オマエが言うなや、ホント。でもオヤジならＪＣってだけでヤリたがるのもいるんちゃう？

　酷い……デタラメにもほどがある。おふざけでもこんなこと許されるはずがない。こんなこと書かれて、明日から学校なんて行けるはずがない。もう嫌だ。こんなの読むのはもう止めよう。そう思うのに、画面をスクロールする志穂の手は止まらない。

２０２✕／９／２２　りたりん

あのオンナにサイトのこと知ってるかきかれた。ホントのこと言ってやろうかとも思ったけどゴマ化した。ああ、これも見てるかもしれない。ベロベロちゃん！　見てる？　真帆ちゃんに相談したんだって？　自分のことボクなんて呼ぶような不思議ちゃんだから、どっかイっちゃったのかなあ、って笑ってたよ。

　サイトのこと知ってるか訊いた相手は凛しかいない。一番見たくないものを見てしまった。絶対の友だちだと思っていた凛に裏切られた。信頼できると思った真帆先生までボクのこと笑ってた。この世界にボクの味方はいないのだ。自分の身は自分で守るしかない。

　心の中の何かがプツンと切れたっていう表現があるけど、まさに今の自分がそうだと志穂は思った。