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「そんなところで寝ていたら、また風邪引くわよ」


 ユークが目覚めたことに気付いた少女は、金色の髪を靡かせて振り返り、小さく唇を尖らせる。そして、驚いて声を失うユークに手を差し伸べ、あの時と同じような笑顔を見せた。


「ユーク、帰ってきたわ」


 その手を取って立ち上がる。


 髪だけでなく、瞳も元の色に──海のような深い蒼に戻っている。


「…………」


 あまりにじっと見つめていたからか、リディアは頬を染めて気まずそうに目を伏せる。そして耐えかねたように、


「……抱きしめてくれないの?」


 と、不満げに零した。


「っ……」


 言葉にならない声と共に、細い身体を抱き寄せる。


「なっ……なんで、戻ってこられるのは半年後だって……!」


「サプライズ返し、しようと思って」


 リディアは涙声で笑った。


「ユーク、会いたかった!」


 ずっと待ち望んでいた言葉。一言でいいからそう言って欲しくて、けれど手紙には一向に書かれることはなくて、何度肩を落としたことか分からない。再会できたら、絶対に文句を言ってやろうと心に決めていた。


 けれど、そんな決心もすぐに崩れ去った。


 リディア自身の声で、聞きたかった言葉を聞けた。それだけで心は十二分に満たされた。ずるいと思うが、これが惚れた弱みというものなのかもしれない。


「……向こうでは、酷い扱いは受けなかったんだよな?」


「えぇ、ちょっと拍子抜けするくらい丁重に扱ってもらったわ」


「もう、正式に人間に戻ったって認められたんだよな?」


「手紙でそう言ったでしょ?」


「ああ。でも、直接聞きたかったから」


 額を合わせる。互いのぬくもりが伝わってくる。


 リディアが目を閉じて背伸びをした。ユークもリディアの後頭部に手を添えて、今度こそ、だまし討ちではないキスをする。何の不安もない、先の希望に満ちた恋人同士のキスを。


 今宵の月は、少女の帰郷を歓迎しているかのように美しいものだった。



                                     〈了〉

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半吸血鬼少女の帰郷 水奈月 涼香 @minasuzu

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