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「……業務連絡」
「へ?」
「あれは業務連絡だ。淡々と出来事を書くだけの」
リディアの繊細で丁寧な字でしたためられるのは、どんな部屋で過ごしているとか、何月何日に大聖堂で一回目の監査があったとか、大司教へ拝謁したとか。
もちろん全て知りたい情報ではあった。
向こうで彼女が酷い目に遭っていないか心配で気が気では無かったし、最初のうちは手紙を読むたびに胸を撫で下ろしたものだ。特に、人間の身体に戻っていることを正式に認められたと知ったときには、力が抜けて思わずその場にしゃがみ込んだ。
しかし。この半年の間、一度も──ただの一度も、『会いたい』程度の言葉さえもらえていないというのは、恋人同士のやり取りとしていかがなものかと思う。
「ほわ~~~、それはなんていうか……悶々としちゃうね。多分、検閲があるから恥ずかしいんじゃないかな?」
「俺は書いたのに……」
「か、かわいそう」
向けられた同情の眼差しが、余計に辛い。
こんなことなら、もっと抱きしめたり、甘い言葉を囁き合って、そういう雰囲気を深めておくべきだっただろうか。
二人は幼なじみだ。兄妹のような関係から恋人になるには、友人から発展する恋愛よりも照れくささが邪魔をして難易度が高い──気がする。
他の恋愛なんて知るよしも無いが、ユークは勝手にそう思っていた。
「そんなユークくんに、良いもの見せてあげる。ほらこれ!」
じゃーんと見せられたのは、『Ⅶ』という数字が刺繍された布製のキーホルダーだった。
小さな銀色のビーズで縁取られていて、店で販売しているものではないだろうが、丁寧に作られていることは一目で分かった。
「なんだそれ?」
「推し活グッズ! もちろんⅠとⅨもあるよ」
「…………?」
さっぱり理解出来ないでいるユークに、ビビアナは手を腰に当てて説明を加える。
「もうっ、リディアの
「あ、あぁ、そういう? つーかよく覚えてんな」
「
「……あー、けどリディアの髪の色は……」
ユークは訂正しようとするが、ビビアナの意識は既に別のところにあるようだった。
「あっ、もうこんな時間! 早く帰って次のグッズ作らなきゃ。じゃあまたね!」
ビビアナはびゅんっと効果音がつきそうな勢いで、ユークのアパートとは逆方向に駆けていく。取り残されたユークはぽかんとして、その忙しない背中を見送った。
「……楽しそうだな」
次の手紙には、ビビアナの様子を書いて送ろうと思った。リディアはしきりに友人のことを心配していたし、元気に過ごしていると知ればきっと安心するだろう。
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