11
──……
港町リーヴェンに顕現した影の真祖スコティニア。死都化レベルを0から5まで一瞬にして引き上げ、多数の眷属を召喚。町に吸血鬼たちが蔓延ったが、これを完全に制圧したのは
「
「リディアに頼まれて、客人を連れて参りました。貴方に一目お会いしたいと」
そこには魔眼をひとつ失ったクラリスと、一人の少女が立っていた。
「……何者だ?」
重々しい声に、小柄な少女は肩を跳ね上げてしゃべり出す。
「ああああああの、わた、わたくしはっ、ビビアナ・オタラと申す者です! アリ……じゃなくて、リディアの友人で、同じ学校に通っていまして、そ、その……」
緊張に染まった頬に、一筋、涙が流れる。
「子どもの頃に……わたし、あなたに助けられました。奈落の吸血鬼に襲われていたところに、あなたが来てくれたんです。だから、ずっとそのお礼が、したくて。あ、あの時は……本当に、本当にありがとうございましたっ……」
嗚咽まじりに、それでもビビアナは何とか最後まで言い切った。ずっと胸の奥にあった、伝えたかった言葉を伝えられた。
そのまま涙を止められない少女を前に、
「…………己の責務を果たしたまで。礼など必要は」
「ぎゃ───────っ、渋い! かっこいい!」
「………………」
「はっ、す、すみません。推しを前にしてちょっとテンションが変に……」
涎を拭いて、ビビアナは続ける。
「えっと、それからその……リディアが、CVOに戻ると……聞きました。事情はわからないけど、何かの検査をするって。その、リディアのこと、よろしくお願いします。リディアはすっごく強いけど、それと同じくらい繊細な子だと思ってて……!」
「解釈一致ですわ」
クラリスが突如、くわっと目を見開く。
「えっ、本当ですか?!」
「えぇ。わたくしたちも良い友人になれそうですわね。ビビアナさん」
「ほわぁああ、嬉しい!」
「……………………」
きゃっきゃと楽しげに手を重ね合わせる少女たちに、
『わたし、あなたに助けられました』
ビビアナの真っ直ぐな眼差しが、言葉が、脳裏に焼き付いている。
憎しみのままに吸血鬼を屠ってきた。それこそ人間性を捨て、色んなものを犠牲にして今に至る。その道の途中で、あれほど純粋な感情を向けられているなど──少女が自ら伝えに来なければ、気付くこともなかっただろう。
「……名残惜しいですが、そろそろ船が着く頃合いですわ」
クラリスがビビアナと重ねていた手をそっと下ろす。
「ゆっくりと迎えに行きましょう。ふたりの時間を、少しでも長く過ごしてもらえるように」
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