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 一斉に、そして絶え間なく射出される魔弾が雨のように真祖に降り注ぐ。立ち上る煙が視界を遮るが、必中の十字武具ロザリエ対魔小銃フェイルノートが狙いを違えることはない。


 スコティニアは自身の影から無数の手を産み出し、魔弾を防いでいた。あくまで前方からの攻撃、狙いも一点となれば容易いことだった。


 しかしスコティニアはふと気付く。一部の銃口が、あえて狙いを外し始めた。


「あら……」


 スコティニアは背後にも影の手を産み出しながら、振り返る。標的を囲むように幾つも展開された小サイズの魔術壁マギアウォール。それらを利用した、跳弾による全方位攻撃。


 その魔弾の雨をかいくぐるように飛び込んでくる、銀の彗星。


 銀色の光芒は凄まじいスピードで弧を描くが、スコティニアの首元すれすれのところで空を切った。


「フフ、どうしてそんな小さな武器を使っているの?」


 歌うようにいいながら、スコティニアが浮遊する。


 リディアはすかさず短剣カルンウェナンを翻すように持ち替えた。その手に握られていたのは、短剣ではなく銀の拳銃ピストル


「こういう小回りが利くからよ」


 タァン! と対魔小銃フェイルノートとは異なる甲高い銃声が響く。


 現存する十字武具ロザリエの中でも、唯一の変形コンヴァート型。それがリディアの短剣カルンウェナンだ。


 スコティニアは目を丸くして、咄嗟に身をよじった。狙いが逸れ、弾丸は敵の肩を掠めただけに留まる。


(マドリ先生が来るまで生き延びて、真祖を拘束、または無力化する)


 しかし、この作戦はクラリスには伝えない。


 真祖を相手に、余計なことを考えていては命取りだ。リディアの問題に彼女を巻き込むわけにはいかなかった。


(だから、なんとしてでも私が──!)


 魔術壁マギアウォールを蹴って、体勢を崩したスコティニアとの間合いを一気に詰める。再び拳銃カルンウェナンを構え、引き金を──


「つかまえた♪」


 スコティニアは小さな唇を歪めて笑う。


 瞬間、リディアが放った弾丸が彼女の脳天を貫いた──ように見えた。しかし幼い少女の姿は幻のように揺らめいて消えてしまう。


(幻影!?)


 しかし先ほどまでは間違いなく本体だった。いつの間に入れ替わったのか。


 リディアは身を翻して地上を見た。その視線の先には、冠位階級魔術を展開し続けるクラリスがいる。対魔小銃フェイルノートを構えたまま、驚愕に目を見開いて。


「………………う、ごけ、な……」


 クラリスの影が伸びる。そこから影の手が伸びて、彼女の片目をそっと覆った。


「クラリス────!!」


 リディアの絶叫と、パァンと弾けような音は同時だった。


 影の手の間から──クラリスの目から血飛沫があがる。リディアはすぐさま転移し、クラリスと影をつなぐ部分を短剣カルンウェナンで断ち切った。


 膝をつき、倒れ込もうとするクラリスの身体を抱き留める。


「しっかりして! 魔力を全て応急処置に回して!」


「……………………」


 クラリスは唇を動かそうとしたものの、声は出せないようだった。呼吸も浅い。そんな彼女は片方の眼球を失っていて、暗い穴だけがそこにあった。


 いつの間にか上空に浮遊していたスコティニアは、その手についた大量の血に舌を這わせていた。青白い唇に血のべにを付けて、無邪気に笑う。


「あはっ! やっぱり生き血が一番美味しいわ!」


 ──対魔小銃フェイルノートは必中の十字武具ロザリエだ。しかし、それを無数に複製召喚し、文字通り百発百中を実現してみせるには対魔小銃フェイルノートの力だけでは不可能。生まれながらにしてクラリスが持つ、魔眼あってこその芸当だった。


 何キロ先も見通せる人間離れした視力と視野。しかしその片方を失い、傷口の応急処置に魔力をあてがっていては──……


 クラリス・ルロワは、もうこれ以上、真祖相手にまともに戦えない。


 こうなることが分かっていて、スコティニアはわざわざ目を狙ったのだ。


「さぁ、母と二人きりになれたわね! はやく戻ってきてちょうだい、我が娘」


 クラリスを芝生の上に横たわらせて、リディアは上空の敵を睨み付ける。


「……天位魔術式展開」


「まぁ。親子の会話は大切にしないと駄目よ?」


恒星火炎フレア!」


 真祖直系吸血鬼ノーブルヴァンパイア、テネブレを灼いた焔と比べれば短縮詠唱の影響で威力は劣るが、目くらましにはなる。


 ここからだ。もうリディアも、時間稼ぎなど余計なことは考えない。


(そんなことを考えていたら……その前にみんなやられる)


 短剣カルンウェナンを持ち直し、リディアは地面を蹴って爆発の中に身を投じた。

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