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一斉に、そして絶え間なく射出される魔弾が雨のように真祖に降り注ぐ。立ち上る煙が視界を遮るが、必中の
スコティニアは自身の影から無数の手を産み出し、魔弾を防いでいた。あくまで前方からの攻撃、狙いも一点となれば容易いことだった。
しかしスコティニアはふと気付く。一部の銃口が、あえて狙いを外し始めた。
「あら……」
スコティニアは背後にも影の手を産み出しながら、振り返る。標的を囲むように幾つも展開された小サイズの
その魔弾の雨をかいくぐるように飛び込んでくる、銀の彗星。
銀色の光芒は凄まじいスピードで弧を描くが、スコティニアの首元すれすれのところで空を切った。
「フフ、どうしてそんな小さな武器を使っているの?」
歌うようにいいながら、スコティニアが浮遊する。
リディアはすかさず
「こういう小回りが利くからよ」
タァン! と
現存する
スコティニアは目を丸くして、咄嗟に身をよじった。狙いが逸れ、弾丸は敵の肩を掠めただけに留まる。
(マドリ先生が来るまで生き延びて、真祖を拘束、または無力化する)
しかし、この作戦はクラリスには伝えない。
真祖を相手に、余計なことを考えていては命取りだ。リディアの問題に彼女を巻き込むわけにはいかなかった。
(だから、なんとしてでも私が──!)
「つかまえた♪」
スコティニアは小さな唇を歪めて笑う。
瞬間、リディアが放った弾丸が彼女の脳天を貫いた──ように見えた。しかし幼い少女の姿は幻のように揺らめいて消えてしまう。
(幻影!?)
しかし先ほどまでは間違いなく本体だった。いつの間に入れ替わったのか。
リディアは身を翻して地上を見た。その視線の先には、冠位階級魔術を展開し続けるクラリスがいる。
「………………う、ごけ、な……」
クラリスの影が伸びる。そこから影の手が伸びて、彼女の片目をそっと覆った。
「クラリス────!!」
リディアの絶叫と、パァンと弾けような音は同時だった。
影の手の間から──クラリスの目から血飛沫があがる。リディアはすぐさま転移し、クラリスと影をつなぐ部分を
膝をつき、倒れ込もうとするクラリスの身体を抱き留める。
「しっかりして! 魔力を全て応急処置に回して!」
「……………………」
クラリスは唇を動かそうとしたものの、声は出せないようだった。呼吸も浅い。そんな彼女は片方の眼球を失っていて、暗い穴だけがそこにあった。
いつの間にか上空に浮遊していたスコティニアは、その手についた大量の血に舌を這わせていた。青白い唇に血の
「あはっ! やっぱり生き血が一番美味しいわ!」
──
何キロ先も見通せる人間離れした視力と視野。しかしその片方を失い、傷口の応急処置に魔力をあてがっていては──……
クラリス・ルロワは、もうこれ以上、真祖相手にまともに戦えない。
こうなることが分かっていて、スコティニアはわざわざ目を狙ったのだ。
「さぁ、母と二人きりになれたわね! はやく戻ってきてちょうだい、我が娘」
クラリスを芝生の上に横たわらせて、リディアは上空の敵を睨み付ける。
「……天位魔術式展開」
「まぁ。親子の会話は大切にしないと駄目よ?」
「
ここからだ。もうリディアも、時間稼ぎなど余計なことは考えない。
(そんなことを考えていたら……その前にみんなやられる)
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