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しばらくして身体の修復が止まり、痛みも完全に消えた。ただ自己再生能力も万能ではないらしく、魔力や体力は消費するようで、全身が鉛になったような気だるさは抜けていない。
でも今は、自分よりもユークのことが心配だった。師匠との訓練を思えば楽なものだと笑っていたけれど、どうみても疲れきっている。二人とも、十分な休息が必要だった。
ユークに手を貸してもらって起き上がり、改めて今いる場所を見回す。
リディアたちが暮らしていた施設を運営する教会。その礼拝堂。腕利きの職人によって造られたという木造の
ほとんど記憶の中の光景そのままだったものの、壁一面の美しいステンドグラスだけは少し欠けていて、そこから鉛色の空が見えた。
リディアはユークに、これまでの出来事と今の状況を全て話した。
マドリがリディアの身体を元に戻すため、世界を駆け回ってくれていることを説明したとき、見たこともないほど沈んでいたユークの顔にようやく明るさが戻った。
「元の身体に戻る方法があるのか? なら……!」
「分からないけど、今も調べてくれているみたい」
「そうか。希望は、あるってことだよな」
頷くと、ユークは安堵の息を吐いて身体の力を抜いた。そして高い天井を仰ぎながら、ぽつりと呟く。
「リディアの家の位置は多分バレてるよな。しばらくここで、これからどうするか考えるか」
「……でもユークは、やっぱり私から離れていたほうがいいわ。前みたいなことがあったらと思うと……」
「それだけはしない。もううんざりなんだ。待つのも、心配するのも」
言葉には微かにトゲがあって、リディアは続きの言葉を飲み込んだ。
「一緒に育った幼なじみが仇討ちをして傷ついてる間、何も知らずに馬鹿みたいに待ってただけって。なんつーか、情けないにもほどがあるだろ」
「え!? そ、そんなことない!」
「そもそもリーヴェンを出て行く時に相談もしてもらえなかったのは、そんだけの……」
ユークは途中で口を噤んだ。ぐぐ、と何かに耐えるように俯いたあと「あぁくそ、良くないな」と、小声で悪態をついた。
「ちょっと頭冷やすついでに出かけてくる。すぐ帰ってくるから、絶対ここを動くなよ」
「出かける!? どこへ……」
突然立ち上がり、出口に向かって歩き始めたユークに驚き、リディアも腰を浮かせる。
「何か食べるもんと、あと服、買ってくる。リディアの……女物は詳しくないから、普通のシャツでいいか?」
「ユーク待って!」
「! まだ動くなって……!」
追いかけるリディアに気付き、ユークは慌てて身体を支えにくる。リディアは首を横に振って、ユークの腕を掴んだ。
「ユークだってまだ顔色が悪いわ。だから出かけるのは待って、聞いて。私がリーヴェンを出るときに何も言わなかったのは、あなたを巻き込みたくなかったからよ」
「なんで。俺にとってもテネブレは仇だった。何より、俺たちは一緒に育ってきた家族だ。……初めにそう言ってくれたのは、リディアじゃないか!」
ユークの悲痛な叫びが礼拝堂に響く。
『私たち、家族でしょ。ユーク』
──そうだ。ちょうどこの礼拝堂で、たったひとり座っていた少年に声をかけた。家族だから、一緒にご飯を食べようと。ただそれだけの──……
「…………好きだったから」
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