第四章 本当の花言葉
1
「本当に、手紙の内容はあれで宜しかったのですか?」
「いいんだってば。それ何回目よ、クラリス」
クラリスに捕まってから一夜明けた早朝。海沿いの静かな道を港に向かって歩く。
「女性のほうにお送りするものはあれで宜しいかと。問題は殿方のほうですわ」
昨夜。クラリスに案内された高級ホテルで、リディアは手紙の代筆を彼女に頼んだ。ユークとビビアナに宛てたものだ。
ビビアナには、主に創設記念パーティに出られないことへの謝罪。ユークには──あんな別れになってしまったが、色々と助けになってくれたことへの感謝をしたためてもらった。
しかしクラリスは内容に納得いっていないらしく、ずっとこの調子で抗議されている。
「さっぱりしすぎでは、と思いますわ。あんなの短時間しか煮ていない
「言えるわけないでしょ! ……ってなんで知ってるの!?」
ユークは幼なじみであることと、リーヴェンに戻ってきてから隣人として色々世話になった──ということくらいしか情報を与えていないはずだ。だというのに、いきなり核心を突いてきたクラリスは、つーんと顔を背けて言った。
「まぁ、あれで隠しているつもりでしたの? 呆れた、あんなに分かりやすい惚気話を語っておいて」
「惚気てなんてないわ! ただふつうにユークのことを話してただけで……!」
慌てて否定するが、クラリスはどこ吹く風で話題を変える。
「そうですわ、わたくしが差し上げたあの
「えぇ、有り難く着ているわ。寝るときにね!」
「せっかくのお隣同士ですのに夜這いもなし、と。はぁ」
「告白もしてないのに夜這いなんてするわけないでしょ!?」
「? 順番のお話ですか? 逆でも問題ないのでは?」
「お淑やかな顔で変なこと言わないでよ……! ていうか、どっちにしてももう手紙は転送魔法で送っちゃったんだから。そろそろ本人たちの手元に届いている頃でしょう」
「なら、いつかまたここへ帰ってきて、ご自身で直接お伝えくださいな」
クラリスは前を向いたまま、唇を尖らせていた。どうも拗ねてしまったらしい。
「ユークを困らせるようなことは言わない。でも、そうね。元の身体に戻って、帰ってこられたら……もう一度だけ、一緒にマレーヌを食べたいわ」
「マレーヌ?」
「この町の名物よ。甘いけど、美味しいの」
「……そうですか。それは、魅力的ですわね」
港が見えてくる。そこには一隻の船が停泊していた。まだ薄暗かった空はいつしか白み始めている。曇り空なのは相変わらずで、あの日、ユークと見た日の出のように美しい夜明けではなかったけれど。
別れの朝には、こちらのほうが相応しいように思えた。
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