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「──え?」


「温めてくれる? ……ユーク」


 戸惑う男にするりと腕を回して、身を寄せる。一瞬驚いた様子で身じろぎをしたものの、拒否する様子はない。あぁ、あまりに無防備だ。


 首筋に唇を寄せる。雨に濡れた冷たい肌を、隙間なくぴたりと触れ合わせる。まるで全身が氷になったようだ。はやくこの■を飲んで、温まりたい──……


「リディア」


 その名を呼ばれて、硬直した。


 目の前に馳走があるのに動けない。一体何が起きているのか、理解が出来ない。


「リディアなんだろ? アリアじゃない。七年前にリーヴェンを出た……俺の、幼なじみの」


 違うと言ったはずよと口が動いた。今はそんなことどうでもいいはずなのに、否定した。


 どうでもいい? ……本当に?


「ミュラの花言葉は〝約束〟じゃない。約束っていうのは、俺が子どもの頃についた嘘だ」


 嘘? なぜ?


「そんな嘘の花言葉を教えたのは、リディアしかいない。……頼むから、偶然だなんて言わないでくれよ」


 リディアは歯がみすると、ユークの両肩を掴んで自分から引きはがした。彼の表情を見る余裕はなかった。


「……何かあったんだな? 様子がおかしい。どうしたんだ、リディア」


 震えながら声を絞り出す。


「早く、逃げて」


「逃げ、る? 吸血鬼からってことか? でも、どこに……」


「違う。私から」


「……何を……」


 逃げてくれないのなら、自分から離れるしかなかった。


「────転移」


「! 待っ……」


 呼び止める声は、そこで途切れた。

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