7
「──でね、
混み合うランチ時の食堂で、ビビアナ・オタラは興奮を隠しきれないように、けれど極力小さな声で話していた。
「魔法で戦闘服の記憶を保存しておけば、いつでも着替えることが出来るってこと。あ、でもこれだと失敗したら素っ裸になっちゃうのかな? えっちだね……?!」
「えっ……というか、ものすごく格好悪いわね。そんなことになったら私なら死にたい」
もう自ら死を選ばないと心に決めたばかりのリディアは、あっさりその誓いを覆した。
「でもきっと、
「オタトモ?」
「オタク友達! シルバレオタって全国にいるんだよ。この学校にはわたしだけだけど、よく手紙で情報交換してるんだぁ」
スクランブルエッグをスプーンに乗せたまま、リディアは固まる。
(なにが秘匿された特殊部隊よ……存在、めちゃくちゃ知れ渡ってるじゃない!)
確かに、CVOは
ど派手な戦い方を好む戦闘狂、華やかなドレスで町を歩く貴族令嬢に重火器を背負う大男。
(……バレないほうがおかしいかもしれない)
リディアは考えを改めた。
「そうだ、最近夜にコウモリが飛んでるって噂、知ってる?」
ふと深刻な顔をして、ビビアナが切り出した言葉にぴくりと反応する。
「コウモリ?」
「お母さんから聞いたんだけど、いくつか目撃情報があるって。コウモリって吸血鬼の代表的な眷属だよね? コウモリが飛ぶのは、吸血鬼が現れる前触れだって」
「そうとも限らないけど、普段生息していない地域にコウモリが現れるようになったら念のため警戒したほうがいい、って言われてるわね」
「だよね。それでね、ファビアンもその噂を聞きつけたみたいで……『僕がこの町を守るから安心しろ』ってみんなに言い回ってるみたい」
「そうなの? クラスでは大人しくしてると思ってたんだけど」
不意に目が合いそうになっても、高速で顔を背けるあのいけ好かない男のことを思い出す。転校初日に見せていたような傲慢さはなりを潜め、まるで別人に生まれ変わったように感じていた。ビビアナは苦笑しながら肩をすくめる。
「アリアの前では偉そうに出来ないだけだよ。散々恥をかかされたし、そのことを学校中が知ってるしね。ファビアンは汚名返上しなきゃって焦ってるんだと思う。もしこの町に本当に吸血鬼が出て、それを退治できたらきっと英雄扱いだもん」
「……変に張り切っていないといいけど」
自分の実力を見誤った状態で敵の前に立つのは、自殺行為でしかない。考え込むリディアに、ビビアナは頬張っていたサンドイッチを飲み込んでから言った。
「どうかなぁ。彼女とも別れちゃったし、必死だと思うよ」
「えっ、あの、マロニー……とかいう?」
「メラニー! もう、リディア全然人の名前覚えないね?!」
「……。でもビビのことはすぐに覚えたわ」
「え? あ、そ、そう? えへ。アリアって、たらしの才能あるって言われない?」
「そんなの言われたことないわ。でも、そう……別れたのね」
癪に障るふたりではあったけれど、別れた原因に自分も関与していたとなると、多少なりとも罪悪感を覚えるものだ。顔を曇らせるリディアに対し、ビビアナは首を横に振った。
「気にすることないよ、ファビアンってすぐに女の子とっかえひっかえするんだから。あの出来事がなかったら、自分からメラニーを振ってアリアにいってたと思う。鼻の下のばしてたし。もしそうなってたらわたしが絶対ガードして……って、そういえばアリアって彼氏いないの?」
「いないわ」
「じゃあ好きな人は?」
「……………………いないわ」
「う、うそ」
ビビアナは座っていながら、よろり、とよろめいてみせる。
「そんな分かりやすい反応、ある?」
「何が?」
「アリア~~~~スプーンでパンを食べるのは無茶だよぉ~~~~っ」
「…………」
そのあと、クラスメイトなのか、知っている人かなどと散々聞き取り調査をされたものの、リディアは口を割らなかった。
ビビアナがようやく諦めた頃、なるべく視線を動かさないよう注意しつつ、少し離れた席で友人と談笑するユークを見る。その姿にふと違和感を覚えて、リディアは小さく息をのんだ。
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