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『お前のことだから、存分に日光浴をしたり、海で泳いだり、銀の玩具で遊んだりして過ごしていることだろう。久々の故郷を満喫できていることを心から願う。


 俺は今、北の大国イゾルディアにいる。


 複数の流派が入り交じり、独自の発展を遂げた医療魔術から盗める技術や知識があるかと期待したが、残念なことに大きな進展はない。


 ただ、民間人から妙な噂を聞いた。吸血鬼の血筋について調べている学者がどこぞにいるらしい。今までほとんど明らかになっていない分野だが、少し気になるところがある。その学者の居場所を探してみることにする。


 今のところ変わり者のじいさんだということしか分かっていない。また連絡する。


 P.S. お隣さんとは仲良くしてるか?』







 最後の文字を読み終えた瞬間、手紙がひとりでに蒼い炎をまとった。隠匿のためにかけられた魔法が発動したのだ。


 リディアは、全て正確に言い当てられた居たたまれなさにプルプルと震えながら、欠片一つ残すことなく燃え尽きた手紙を見届けた。


(突然、秘匿魔術で手紙を送ってきたかと思えば、この内容……)


 ぐっと眉間に力を入れて、感情を抑える。


(それに吸血鬼の血筋って何の関係が?)


 養父だというのに、リディアはトウジ・マドリという男をまともに理解できたことがない。


 児童養護施設で子どもたちを看ながらも『これだからガキは嫌いだ』と何度も愚痴を零してはシスターに怒られていたし、あの凄惨な事件のあと──おそらく仕方なく──リディアを引き取ったときも『俺は子育てとやらをしてやるつもりはない』と面と向かって言い放った。それなのに、リディアが勝手にCVOに入隊希望を出してリーヴェンを発つと決めたときには喜ぶかと思いきや怒り狂ったし、それどころか結局リディアと共に移住した。リディアはCVOの寮を使っていたので同居することはなかったが、月に一度は検査を理由に新しく構えた診療所へ来るよう言われていた。


 リディアがテネブレと対峙し、半吸血鬼の身になった日。


 どうして彼は死都化も進んでいた地域に足を踏み入れてまで、助けにきてくれたのか。自らも危険な立場になるというのに、リディアの逃走に手を貸したのか、わからない。マドリのほうはこんなにも、リディアの行動を見透かしているというのに。


「……そういえば。やっぱり、隣がユークだと知っていてこの家を選んだのね」


 ベッドに寝転がり、不機嫌に天井を睨む。


 一度は、マドリとユークが裏で繋がっている可能性も考えた。マドリがユークに全てを話した上で監視役に使っているのではないかと。けれどユークがリディアを見た時の驚きは本物だったし、そもそもあの彼らが手を組むのはなさそうだ。何故ならあの二人はやたらと仲が悪い。というよりユークがマドリを一方的に嫌っているというほうが正しいか。


(そういえば、どうして仲が悪かったんだっけ……?)


 原因となりそうな出来事を思い出そうとするが、何も浮かばない。


 リディアは諦めて起き上がり、出かける支度を始めた。学校の時間だ。




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