5
漁師の男はまだ懐疑的な目を向けていたものの、二人ともが全身水浸しであることに気付くと、親切にもタオルを貸してくれた。
町が完全に目覚めてしまう前に、足早に帰路につく。しかしリディアは、別れる前に確認しておきたいことがあった。
「……さっきの、
「あぁ、そうそう。よく分かったな」
半歩前を歩くユークが、タオルで頭をふきながら答えた。
「海で使うひとは初めて見たわ。しかも速くて正確だった」
「女王からお褒めの言葉とは、光栄だな」
「女……なにそれ?」
「
リディアはすぐさまその情報を記憶から消した。
「それより、どんな魔術訓練したの? まさか学校で習得したわけじゃないわよね?」
じっ、と顔をのぞき込んで見つめれば、ユークはどこか気まずそうに視線をそら
す。けれど隠したりするつもりはないようで、ぽつぽつと話してくれた。
「教団の魔術師に教わったんだ」
「! アマテラスの?」
魔術師教団アマテラス。吸血鬼への対策組織としては
簡単に分類するとすれば、CVOは吸血鬼という種の根絶ただ一つを目的とし、アマテラスは魔術の研鑽を至上命題としている。その大義名分として吸血鬼打破を掲げているだけに過ぎない。
「っていっても、教団は引退していたらしいけどな。リーヴェンにバカンスに来てたところに、しつこく頼みに行った。魔術を教えてくれって」
「どうして?」
答えが返ってくるまでに少し間があった。その横顔には暗い影が落ちている。
「……もう何もできないのが嫌だったから、かな。昔、そう思うようなことがあったから」
『何もできない! 俺たちは何も……っ!』
幼いユークの、血を吐くような叫びを思い出し、リディアはタオルを握る手に力を込める。
リディアも同じだ。吸血鬼に殺される姉を前にして、何もできなかった自分を悔いた。その想いは、CVOに入隊し、実力を認められて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます