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リディアは窓際の席に座るよう促され、そのまま授業に入った。科目は史学。教鞭を執るのはさっきの女教師だ。
「──つまり、吸血鬼が世界で初めて確認されたのは約千年前。諸説あるけど、死者の魂を蘇らせる儀式なんてのを実行した、黒魔術師が原因だったと言われているわ。そこから徐々に数が増え、いつしか人間社会を脅かすまでになっていった」
ホワイトボードに年表が記されていく。少しあいた窓から爽やかな風が吹き込んできて、リディアは欠伸をかみ殺した。
この町は平和だ。少し、空恐ろしくなるほどに。
「吸血鬼への対策として、様々な組織が設立されたわ。最も有名なのはイージスが所属する
「先生、CVOに所属しているのはイージスだけじゃありませんよね!」
突如、最前列に座っていた女子生徒が前のめりで発言した。「ほわ~」の子である。教師は目を瞬かせて生徒のほうを振り返る。
「オタラさん?」
「CVOが誇る最大戦力、
思わぬところで自身が所属する組織の名前が飛び出して、ぎょっとする。一瞬にして眠気が吹き飛び、その小さな後ろ姿を見やった。
「イージスが守りの要であるなら、彼らは攻撃の要。吸血鬼を殺す技能に特化した精鋭集団です! また純銀に魔力を込め生成した
「あー、オタラさん。前にも言ったけど、その類いの噂は確かに多くあります。ただ、CVOはその存在を正式に認めていません」
またか、と言いたげに女教師はかぶりを振り、生徒の発言にストップをかける。
「不確定な情報は今ここで議論すべきでないわ。CVOに所属しているのは、中級以上の吸血鬼が現れた時に出動するイージスと管理機関のみ。それでいいでしょう?」
でも、とオタラと呼ばれた生徒は食い下がろうとする。しかしそれを、妙にキンキンと響く耳障りな声が遮った。
「おぉ、オタラ! この町を守るハンターだけじゃあ物足りないっていうのか?」
ファビアンだ。ウェーブのかかった髪に指先を絡ませつつ、大げさに溜息をつく。
「それは心外だ。次期ハンターの盟主と言われている僕としてはね」
「物足りないとか、そういう話をしてるんじゃなくて。わたし、子どもの頃に
「やめなよファビ。自分の妄想を語りたいだけのギークなんて、相手にするだけ無駄よ」
メラニーがくすくすと笑いながらオタラを流し見る。立ち上がりかけていたオタラは、顔を赤くして座り直した。
「そう言ってやるな、メラニー。ハンターの仕事ぶりは滅多にお目にかかれない。なんせ、町に侵入しようとする吸血鬼をボコるのは主に真夜中だからね。なかなか理解されない、辛い職業なのさ……」
「素敵」
その一言が、教室に静寂をもたらした。
全員の視線が先ほどと同じように転校生へと集中する。発言の意図をはかりかね誰もが言葉を発せないでいる中、リディアは笑みを浮かべていた。
「ハンターって凄いのね。次期盟主様のお手並み、ぜひ拝見したいわ」
甘さをたっぷり含ませたおねだりに対し、ファビアンとメラニーの反応は見事に真逆だった。ファビアンはだらしなく頬を緩め、メラニーは全身の毛を逆立てて肩をいからせる。
「もちろんいいとも、アリア・シェード嬢! ちょうど午後に退魔術の実技授業がある。我がバイヤール家伝統の
歌うようにそう言い放ったファビアンに、他のクラスメイトからはやし立てるような口笛や声が飛ぶ。そんな中、オタラだけがぽかんと口を開いてリディアのことを見つめていた。
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