お父さん銀行と、信用創造。

あめはしつつじ

金と信用

「パパはダメだ。お父さんもダメだ。父親。と、呼びなさい」

 新しいお父さんは、お固い人。

 ぎんこーいんで、げんしゅくで、げんがくなんだって。

「お母さんは、パパって言ってるのに?」

「ママは良いんだ」

「ねー、パパ」

 だって。

 ずるい。


 新しいお父さんは、ケチだ。

「ちちおやー。これ、欲しい。どーしても、欲しい」

「ダメだ、この前のテストで、90点取れなかっただろ」

「欲しい欲しい。ちちおやー、欲しー」

「誕生日まで、我慢しなさい」

「七夕じゃダメ?」

「ダメだ。星とお前の欲しいに何の関係があるんだ?」

「じゃあ、おこづかいちょーだい。もーすぐ、夏休みだし」

「小遣いは、働いた分だけだ。織姫と彦星も、働いているから、願いが叶うんだ」

 だって。

 はあ。

「あっ、そうだ」

「なになに? ちちおやー。やっぱり、買ってくれるの?」

「いや。言ってなかったが、誕生日プレゼントの予算は、5000円までだから」

「けちけちけちけち。ちちおや。けちけち。けちおやー。けちおやー。けちおやー」


 夏休み。働かざる者、くーねるところ。

「ちちおやー」

 夜、寝る前が、私のきゅーりょーび。

 その日一日の、私の労働のcheck list。

「早起きをしましたか?」

「Yes,sir」

「朝、挨拶はしましたか?」

「Yes,sir」

「朝ごはんは残さず食べましたか?」

「Yes,sir」

「食べ終わってから、きちんと、食器を片付けましたか?」

「Yes,sir」

「歯磨きをしましたか?」

「Yes,sir」

 えと、せー、とら、うー。

 生活しゅーかんと、おべんきょーと、お手伝いと。

「トイレ掃除」

「Yes,sir」

「風呂掃除」

「Sir, yes sir!」

「良ろしい。では、今日もお疲れさま。はい、今日の給料」

 渡されるのは、父親銀行券。

 50YES券一枚と、20YES券二枚と、1と2と5のYES券が一枚ずつ。

 この紙幣は、兌換紙幣で、お母さん金本位制をとっている。

 欲しいものがあれば、お母さんに言って。

 日本のお金と交換して、払ってもらう。

 1YES単位あたり1YENの交換レート。

 固定相場制。

 金額同じなら。初めから、日本円で渡せば良いのに。


 夏休みも、もうすぐ終わり。

 ちょっと使っちゃったけれど、手元には、1623YES。

 誕生日のために、少しづつ、貯めておいたの。

「ねえ、お母さん。私、欲しいものがあるの」


「ハッピーバースデートューユー。ハッピーバースデートューユー。ハッピーバースデー、ディア、ちちおやー。ハッピーバースデートューユー」

「おめでとー、ほら、パパ、なに? 照れてるの? もう、ろうそく、吹いて吹いて」

「ちちおやー、ふー、ふー」

 ケーキの蝋燭が消える。

 明かりが点くと、私は、隠していた、

「ほら、ちちおやー。誕生日プレゼント」

 デスクワークで、腰が痛い。って、言っていたから。

 冷感ビーズクッション。

 あれ? お父さん、泣いてるの?

 しくしく?

 しめしめ。


 新しいお父さんは、お固い人。ぎんこーいんで、げんしゅくで、げんがく。

 私の誕生日プレゼントは予算5000円まで、だって。

 だけど、1267YESで買ったクッションで、お父さんを喜ばせれば。

 +2000円? +3000円? +5000円?

 1YES単位あたり1YEN以上の交換レート。

 額面以上の価値を生み出せる。

 やっぱり、買ってよかった。このクッション。


 お、ねだん以上。ニトリ。

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