浴場バトル!

「見ろよ、『ダブル』のランバーだぜ……」

「す、すげえ! ロケランもチ〇ポも二刀流なのか!」  


 23世紀でも温泉は人気だ。とはいっても昔ながらの天然温泉はほとんどない。代わりに人工湯が人気であり、かく言う俺も常連であった。


 バイオ温泉『安全、ゼッタイ!』というこの店は年間死者数が6人程度の非常に安心できる温泉だ。なんと年間死者数が両手で数えられる。


 ハヤサカとアヤメちゃんと会談をした数日後の早朝、俺とランバー、チューザちゃんは昨日の怪我を癒すべく訪れていた、というわけだ。


「ここ最近は疲れたから、ゆっくり浸かりたいぜ……」


 朝の穏やかな日差しが曇りガラス越しに差し込む。広い部屋は洗面台が並ぶ場所と一際大きな湯舟に分かれており、湯気が立ちこむ温泉からは独特の硫黄の匂いがしていた。


 そんな中でかけ湯をした俺とランバーはゆったりと部屋の中に足を進める。因みにランバーについては会談の後に、やってきた『アルファアサルト』の皆さんから取り調べを受けていて、相当疲れているようだった。一応俺の監視下で、という条件付きだったから相当ソフトにやってもらったはずなのに。


 まあ『アルファアサルト』は暗黒街の人間にとっては恐怖の対象だ。何と言ったってシンプルに強くて速い。あのドエムアサルトが所属していたとは到底思えないほどに。……やっぱあれアヤメちゃんの嘘だった、ということであって欲しいんだけど。でも身体改造の方式が一緒だったんだよな。嫌だよこんな話に信憑性が出てくるなんて。


「座りすぎてケツの痛みが酷いぜ……」

「ランバー、お前痔持ちだったっけ?」


 二人で浴場のタイルの上を歩いていると、ランバーがそう言いながら尻を触りだす。痔持ちはこの電脳化の時代において珍しくはない。むしろありふれた病とも言える。基本的には完治するはずだが病院嫌いのこいつのことだ、放置してるんだろう。身体改造は好きなのにね。


「以前ジャックって奴に襲われた時にな。負った傷のせいか無理な回避運動のせいか、気づけばとてつもない痛みが……。覚えてやがれ、必ず潰してやる……!」


 ランバーは拳を握りしめて虚空に叫ぶ。人に歴史あり、尻に歴史あり。古傷は勲章とは言うが痔はあんまり格好良くないな、と思っていると聞き覚えのある声が耳に届く。


「あ~ら、ランバーちゃんにドラゴンちゃん、久しぶりじゃないの~」

「「げっ」」


 俺達の肩に気持ち悪い動きで手が近づいてくる。耳元から聞こえる低い声に俺たちはするりと体を翻した。


 そこにいたのは身長2mの長身の男? だった。見た目はどう見ても女、長い髪に綺麗な顔、ふっくらとした胸に細い腰つき。しかしタオルの上からでもわかる盛り上がりがこいつを男だとはっきり示していた。


 ピエールと呼ばれるこの男はバー『ケミカルイエスタデイ』を経営しており、ある種俺の先輩でもある。実際在庫管理の方法とか教えてもらったし。だがそれはそれとして


「さて、二人の御チ〇ポは……」

「余り触るなピエール、俺に男色はない」

「あらアタシを男扱い? 心は男、上半身は女、下半身は男。つまり性別はピエール、さあ新たな扉を開きましょう」


 こいつ、男大好きなんだよな。この風呂に来る理由も男の裸が見れるからだし。この温泉はコンプライアンスとかガン無視だからシンプルに生まれた時の体の性別のみで入る風呂が決まる。普通は男女その他×3とかいい感じに分かれているのに、ここだけ21世紀なんだよな。


 そんなことを話しながらピエールがランバーの腰布をぺろりとめくる。内部を見たピエールと周囲の客はそれを直視してしばらくフリーズし、感動の声を上げる。


「ヘラクレスオオチ〇ポ……すごいわね」

「二本あるぜ、しかもふってえ。流石ランバーさん!」

「俺も増やしてもらおうかな」

「へへ、照れるぜ」

「何照れてんだよ。ピエールもよだれを垂らすなここは浴場だぞ!」


 温泉には当然、サイボーグたちも入る。しかし身体改造を気軽に外すわけも行かない。なので専用の防水パックやシートを貼って入浴することになる。そのためしれっと銃器や弾薬を持ち込んでいることも多く、公衆浴場の殺人発生率は極めて高い。普通のところだと週1以上は発生する。


 まあそんなわけでランバーのロケランチ◯ポは堂々と浴場に持ち込まれているというわけだ。くそ、なんか羨望の視線を浴びているランバーを見ると負けた気になるぜ……。『アルファアサルト』にビビってたくせによ……。


「さて次はあなたね、ドラゴンちゃん」

「あいつは……?」

「知らねえのか、この浴場の守護神だよ。あの人が時たま来るからここの浴場じゃ殺人があまり発生しないんだ」

「じゃあチ〇ポは……」

「ああ、きっとガトリングチ〇ポに違いない」


 何か滅茶苦茶なことを言われている。周囲の観客は完全に野次馬モードで、俺たちの股間を注視している。こういったことは何世紀経っても変わらない。男はいつだってデカ〇ンに価値を感じているのだから。


「まあまて、マスターのチ〇ポに開示請求をかける前に自己開示、浴場チ〇ポバトルはマナーを守ってやろうぜ」

「ランバー、お前さては変なコミック読んだだろ」

「アタシとしたことがそんな初歩的なことを忘れるなんて。どうも、ゲーミングチ〇ポです」

「どんな挨拶だよ!」

「ミゴト!」

「コレクトな作法、ミゴト!」

「お前らも変なコミック読んだな!?」


 俺が叫ぶ横で、ピエールが腰布を外す。出てきたのは彼の体と同じく細長く、しかし1680万色に光り輝くチ〇ポだった!? 


 どういう意味があるんだこれ。確かに浴場の注目を集めきってはいる。しかしそれだけ。何のために改造したんだよ、チ〇ポはデリケートだから手術費高いって聞くのに。


 そんなことを言っていると、野次馬の一部がざわざわとし始める。モヒカンの男たちがピエールのそれを見ながら、羨望の声を上げているのだ。


「見ろよあれ、好きに色を変化させられるんだ」

「つまり設定を変えれば!」

「リアルでもえっちな本のモザイクがかかったチ◯ポが!?」

「「我らエロ同人誌再現委員会!!」」


 ……因みに、日本の漫画やエロ同人誌は今でも人気だ。というのも単純にクオリティが高いのもあるが、かなりの時間が経ち著作権が切れたことでフリー素材化したというのが大きい。くまの〇ーさんのパロディ映画が造られたみたいに様々な派生が生まれ、主流ではないもののサブカルチャーとして根強い人気を誇る。


 そして23世紀、人類の性癖の深化も止まらないわけだが……なんでリアルでそんなことをしようとしてるんだよ。委員会ってなんだまだお前らみたいな変態がいるのか。


「自己紹介は終わりよ」


 そしていよいよ俺の番が来る。


 だが時間は稼げた。こんなしょうもない戦いであるが、この浴場の守護神である俺が負けるわけにはいかない。俺のチート能力の一端を見せてやろうじゃねえか。体内組織を変形、組み換え完了。全てにおいて俺こそが浴場、そして暗黒街最強なのだ!


「さあ開示請求よ、あなたのチ〇ポを……!?」

「「「!?」」」」



 多くを語る必要はあるまい。ただ俺はしばらくの間、『シックスヘッドシャーク』と呼ばれた、ということだけを付け加えておこう。というかあの映画、まだ一部愛好家の中で人気なのか……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る