コロッケをつくろう!

 ランバーが襲われた翌日。居酒屋『郷』の二階でランバーと少女は苦しそうな表情でジャガイモを刻んでいた。


「マスター、もう許してくれ……」

「貸し借りを作るっていうことがどういう意味か、分かったようで何よりだ」

「なんでうちまでやらされんねん……」


 ランバーがチ〇ポ狩りにあった翌日。俺はランバーに借りを返せ、と言ってコロッケのタネを作らせていた。あれみじん切りにしたりするのクソめんどくさいんだよな。身体能力任せにすると飛び散っちゃうし、手作業が一番なんだよ。


 そんなわけで二人は淡々とまな板の上で食材をみじん切りにし、タネの製作を進めていく。因みにランバーは手袋をつけて、だ。こいつの手、サイボーグ化してる関係で変な匂いとかがつく可能性あるからな。安物だと変な塗装をしていることがあるし。


 二人を眺めながら、俺はまったりと出来上がったコロッケのタネを冷凍保存していく。方法としては作ったタネを吸引機で真空パックし、業務用冷蔵庫で急速冷凍するだけだ。だが冷凍温度が効いているのかは知らないが、この方法だと味がほぼ落ちない。そのため、しがない居酒屋のメニューとしては重宝していた。


「くっそ、納豆を投げなきゃよかったぜ……」

「それについてはもういいって言ってるだろ」


 因みに昨日の納豆の件は既に流してある。というのも状況的に仕方がなかったし、あんなに23世紀キッズが嫌がる匂いだとは俺も思っていなかったのだ。


 嫌がるものを無理やり押し付けといてキレるの、あんまりよろしくないなぁ、ということで3秒で怒りを治めたのである。ランバー、ビビらせてしまってゴメン。


 その詫びもかねて、昨日の救助の借りをコロッケのタネ作りという形で返してもらっているわけだ。これなら俺の手間も減るし、ランバーも格安で救助してもらえたことになる。


 ランバーが巻き込まれたのは俺のせい……というのはあるが、そもそもの原因はチ〇ポである。俺は油を注いだだけで、着火したのはこいつだからな。まあ反省するといいだろう。次からはチ〇ポをオマケしてもらうなよ。


 そういえば、ともう一人のネズミっ娘の方も確認する。14歳くらいで、ランバーが抱えていた少女だ。マジで初対面、ガキが巻き込まれるのは忍びないという理由だけで助けたらしい。偉いぞランバー、しばらく飲み代は値引きしてやろう。


「とりあえずネズミっ娘の方は傷は無事か?」

「ネズミっ娘ちゃうで、チューザって通り名でやってる。傷はまだまだやな」


 ランバーに助けられたらしいネズミっ娘はそう言いながら少し不貞腐れる。100%の善意で助けてもらったのが初めてらしく、なんというか凄く反応に困っている雰囲気でランバーの方をちらちらと見ている。


 おっとこれは恋の予感か、ついに風俗と居酒屋通いくらいしか趣味のないランバーに春が!? と俺の中の野次馬が叫び出す。他人の恋路ほど面白いものはない。だって自分のやつは地雷と地雷と地雷しかないし。


「マスター、こんなにコロッケ作る必要あるのか?」


 仕事一筋で生きているおっさんことランバーはその視線に気づく由もなく、自分が作ったコロッケのタネを眺めている。このコロッケは珍しく23世紀キッズにもウケがいい料理の一つだ。どうやら揚げ物系は未だに人気が高いらしい。原価が安くタネさえ準備できれば大量生産可能なコロッケはうちの代表料理の一つとなっているわけである。余ったら俺が食べたらいいしね。


 だが、それにしてもコロッケの量が多すぎるのは事実だ。一週間かけても消費しきれないほどの量を準備している。その理由は極めてシンプルだった。


「ロシアンルーレットをする!」

「何言っとるんやこの店長さんは……」

「食べ物を粗末にするなとオレに言ってやがったのに、三歩歩いたから記憶が消えたのか?」


 チューザちゃんとランバーは呆れた目で俺を見る。そう、やることは簡単。コロッケにワサビやからしを仕込んだものを混ぜる。10個に1個混ぜておいて、回避出来たらその日の支払いはタダという新キャンペーンをやるのだ! 


 単純な美味しさでは他店舗に勝つのは難しい。しかし、面白さなら付け入る余地がある! いくぜいくぜ、と闘志を燃やす俺を他所に、ランバーはふと思い出した様子で憂鬱な表情になった。


「マスター。それよりも、昨日のは大丈夫なのか?」

「急に話を変えるなよ、襲われた件だろ。大丈夫だ、今晩上司が謝罪に来る。居酒屋にトーキョー・バイオケミカル社風情が逆らってすみませんでしたってな」

「ふつう逆やろ!」

「そこでロシアンコロッケを出してやるわけだ。誠意を見せるとはどういうことか、分かるよな、と言って……」

「そのためだったのか、よし協力するぜ!」

「大企業舐めすぎやろ……店長さんが強いとは言っても、相手は昔の国家権力並み、ミサイルでこの店を消し飛ばすのなんて容易なんやで」


 チューザちゃんの言うことは真実だ。彼ら大企業はとてつもない権力を持っている。具体的には核武装してたりする。国の判断とか待たずに撃てちゃったりする。もちろん批判は一杯来るけど、他企業に利益を出せるなら文句すら言われない。


 が、そういう意味では俺はクソ厄介だ。生命力がゴキブリ並み、吹き飛ばされて頭だけになっても数分後に再生していることでおなじみマスターである。しれっと生き延びて他組織に「あいつに復讐したいんです!」とか言いだしたら厄介極まりない。というか実際それをやったことがある。牙統組マジごめん。


「というわけで奴らの話を聞いて、それから対応を決める。まあ俺はまったり居酒屋できたらなんでもいいんだが」

「このチ◯ポは渡さねえ……!」

「なんでムキになっとるねん」

「因みに多分諸悪の根源はあの議員。二人は知らないだろうけど」

「「誰」」


 そんな諸々の結果としてやたらと周囲から気を使われる一般男性が完成した、というわけだ。俺としてはまったり勢力争いに関わらないで済むポジションが欲しかったわけだし、願ったり叶ったりというわけだ。変に畏怖されたり婚約持ちかけられたりするのは困ってるんだけど。


 因みに核だと流石に死ぬ……はずなんだけど、暗黒街の地理的に100%妨害が入るのでノーカウント。皆巻き込まれたくないからね。


 俺が自信満々なのをみて二人は目を見合わせる。


「マスターの強化方法くーいず! オレはドラゴンとかの遺伝子入れて強化したんじゃないかと思うんだがどうだ!」

「はぁ? おっちゃん酒飲み過ぎて頭まで悪くなったんやない? 複数生物遺伝子による強化やって!」

「複数遺伝子入れたら人間の形留めなくなるって言ってたのはネズミっ娘だろー!」

「チューザや! まあそれはその通りや、人間成分が足りなさ過ぎて脳や足が形成されなくなるんよ、でもドラゴンはないやろ!」

「何を、男のロマンだろうが! それに歩く戦車も改造人間もいるんだ、ドラゴンがいてもおかしくないだろ!」

「いーや複数遺伝子や!」


 二人が仲良く騒ぐ中、俺は油にコロッケのタネを投入し、揚げ物を完成させ始める。見てろよ企業の犬、居酒屋の怖さを教え込んでやる。ワサビ100倍の力を味わうがいい……!






 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







「ぐ、ぐぇぇぇぇ、ワサビぃぃぃ」

「試しに食べた店長が死んどる……」

「あんなにまずいのか……」



 結局没になりました。食べ物で遊んではいけない(戒め)

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