10,天主の城

「まずは、飛騨国の事情を話そう」


 いつの間にか、僕から秀吉とーさんに話しの主導権が移っていた。2次説明会の始まり始まり、だ。


「現在、飛騨国を治めているのは、一応、姉小路あねがこうじ家だ。

とは言っても、我が織田家と、隣国である越後国えちごのくにの上杉家と両属した感じになっておる」


 秀吉とーさんは、いつの間にか用意されていた、すっごく大雑把な日本地図を指差しながら、順序よく話し始める。


 いや、ちょっと待って。両属って何?上杉ってもしかして、……あの上杉謙信だよね。


 秀吉とーさんは、超能力者みたいに僕の心を読み、分かりやすく解説してくれる。


「両属というのは、とある家が全く異なる2つの大きな勢力に属することだ。

まあ分かりやすく言うと、大勢力同士の緩衝地帯になる感じだな」


 あ、江戸時代の琉球みたいなイメージか。


「で、上杉家は、あの上杉不識庵謙信うえすぎ ふしきあん けんしんのいるあの上杉家だ。

ただ、その上杉家とは最近、対立していてな……」


 え⁉織田信長って、上杉家と対立していたのか!知らなかった……。


「一言で言うと、今の飛騨は側に火種のある火薬庫のようなものだ」


 はい、北陸の火薬庫ですねー。


「なるほど……。

それで、僕に手伝ってもらいたいということ、とは……」


 秀吉とーさんはニヤリと笑って言った。


「上様に進言をするのよ。

柴田修理亮しばた しゅりのりょう殿が近々軍団長として任命されるという、北陸方面の軍団への参加を、そなたと共に」


 それを聞いて、寧々かーさんは


「お取次とりつぎは、お任せ下さい」


と言って、ニコッと笑いどこかへ行った。


 いや、強いな。


 🩺 🩺 🩺


 数日後、僕と秀吉とーさんは、やけに中華風で大きなお城に向かっていた。


 安土城だ。


 デカい、まじでデカい。今まで見てきたお城が、おもちゃに見えるレベルだ。


 てっぺんまでの高さは、……ざっと30mくらいかな。赤、青、白、黒がこれでもか、ってくらい塗りたくられており、最上部が金ピカに輝いている。


 そんな建物に、朱雀大路すざくおおじもびっくりするほどの大通りをまっすぐ通って行くのだ。


 いや、驚かないわけがないでしょ。


 仰天する僕をニヤニヤと見つめながら、秀吉とーさんは自慢気に言う。


「だが、これだけではないぞー」


「?」


 訳も分からず、首をかしげる僕。


「いつかの盆の夜に、行けたらまた行こうな」


 いや、それ肝試しだって。いくら中身が27の男だとはいえ、戦国時代で肝試しは怖すぎる。


「正月も楽しいぞー」


 今の流れからして、ホラーにしか聞こえない……。


 🩺 🩺 🩺


 しばらく歩くと、お城の出入り口に着いた。


 ワイワイ、ガヤガヤ。


 大勢の人々が続々とお城へ入り、出ている。またまた驚いたことに、その人たちの多くが一般ピーポーに見える。


「父上、これは」


 言いかけた僕をそっと止め、秀吉とーさんはとある方向を指さした。そこには……。


「いらっしゃい!

是非、楽しんでいってこい!」


 40代くらいの男性が甲高い声を張り上げて、入城の受付をしていた。秀吉とーさんに促されて、僕たちはその男性へ近づく。


 気付いた男性は僕たちに、


「ちょっと手伝ってくれ、小姓を動員してもこの人だかりをさばききれないんだよ」


と言って、慌てて僕たちもお手伝いを始めた。


「いらっしゃいませ、どうぞ楽しんで来て下さい!」


 ここって安土城だよね。……僕たちは今、何をしに来ているんだろう……。


 🩺 🩺 🩺


 10分ほど後、僕たちはお手伝いから解放されて、「上様」との謁見を待っていた。受付の男性は、どこかへ行ったようだ。


 恐らく「上様」は、あの織田信長のことだろう。怖い、ヒジョーに怖い。


 僕、死んだことはあるけど、殺されたことはないのだ。切腹とか言われても器具を持っていないので、傷を縫合することもできないし。


おもてを上げよ」


 そう思いながら待っていると、声がかかる。織田信長だ。でも、思っていたより甲高い声だ。まるで、さっきの人みたいな。


 顔を上げると、そこには。

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