8,モノづくり大国

 流石にもう夜になっていたので、昨日は道具作りを諦めて、今日からスタートさせることにした。


 僕の今日のターゲットは、ズバリ聴診器だ。個人的に医師としては、聴診器を首から提げていたいものだ。


 とはいっても、この時代でゴム製でお馴染みのそれを、再現することができるとは考えていない。


 僕は医師だ。ゴムの作り方なんて、カナダ辺りでやっていそうなゴムの木くらいしか知らないのだ。


 だから、僕が目指すのは超原始的、聴診器を最初に発明したルネ・ラエンネック先生が作ったという、木製で筒っぽい見た目のやつだ。


 幸いなことに、秀吉とーさんは木を加工するのが上手い人たちと、太いパイプを持っているらしく、中でも腕の良い人をすぐに紹介してくれた。


 と、いうことで会って見たのだが……。


「……叔父上、お久しぶりです……」


 何故か紹介されたのが、秀吉とーさんの弟で僕の叔父さんらしい、羽柴小一郎長秀はしば こいちろう ながひでさんだった。


 そう、あの家中融和がやたらうまそうなあの人だ。どうやら、こういう特技もあったらしい。


「若様、お久しぶりです」


と言うと、長秀おじは、僕に頭を下げた。隣にいる家臣らしき人も、ペコリと頭を下げる。


 ……背が高いな、あの家臣くん。見たところ、190cmくらいはありそうだ。戦国時代より平均身長が高いらしい現代でも、中々それくらいの高さの人はいない。


 いろいろあって、半分ほど本来の目的を忘れかけていた僕だが、長秀おじとの話しで脱線しかけた思考を元に戻す。


「兄上より、若様の望むままの物を作ってほしいと言われましたが、それは一体どのような物でしょう?

事情は全て、聞いております」


 良かった、わざわざ説明しなくて済む。


「えーと、僕が、『聴診器』って呼んでいるものなんですけど、こういうイメージで作ってほしいんです」


 そう言って、昨晩書いておいた、聴診器の設計図もどきを長秀おじに見せる。長秀おじは、しばらくじっと見ていたけど、ふと顔を上げて言った。


「これならば、材料が揃えばすぐに作れますよ」


 長秀おじは、屈託のない笑顔で言った。


 ……凄いな、いくら現代に比べて単純な作りとはいえ、聴診器だよ、聴診器。例え木製の筒状で、普通の人が見たら、


「え、これが聴診器⁉」


と、びっくりするような作りだとしても、だ。


 ……凄いな。やっぱり日本は、昔っから日本だ。意外と現代と戦国時代って、合戦をしなければ、あんまり国民性って変わらないのかな。


 僕がそんな妄想をしている内に、面会はあっけなくあ終わった。最後に長秀おじは、あの背が高い家臣くんを紹介した。


「彼は、某の一番弟子で家臣の、藤堂与右衛門高虎とうどう よえもん たかとらです。

最近某へ仕官したばかりだというのに、土木技術もその内、某を追い越しそうな勢いなので、聴診器については、彼に任せてもよろしいでしょうか」


 長秀おじがそこまで言うならば、よっぽど凄い人だろう。……事実、身長も凄いし。


「よろしく、与右衛門」


 2つどころか、1つ返事で僕は快諾した。


 🩺 🩺 🩺


 翌日の朝、与右衛門くんがやって来て、僕にとんでもない報告をした。


「聴診器の試作品が、完成致しました」


「早っ!」


 与右衛門くんのお陰で、思っていたよりもずっと早く、竹ちゃんの治療が始められそうだ。

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