魔法学園試験会場騒動記

紫葉瀬塚紀

ショート&ショート 1話完結

 ガーハッハッハッ!俺はこの魔法学園の鬼試験官だ。俺の採点は厳しいぞ!今まで9999人がここの学園の試験を受けたが、合格した者は僅か一人しかいないのだ!今日は新入生に取って初めての試験日だ。ビシバシ厳しく採点してやるからな!

 試験内容は親の顔より見た「的当て」だ。どうだ、ゲップが出るだろう。だがここの的当ては普通の的当てとは違う。乗りこなすのが難しい小型のドラゴンに乗って、それを走らせながら、横一列に並んだ複数の的を次々と射抜いてもらう。いわゆる流鏑馬(やぶさめ)方式というやつだ。そんじょそこらの的当てなんかより遥かに難しいぞ!

 会場に集まった生徒達は、一番手を譲り合って尻込みをしている。アホか。試験を受けに来て何をためらっているのだ。するとその人混みをかき分けて、黒髪短髪童顔無表情のまるで個性の無い学生が、前に出て来て俺に言った。

「オッサン、俺が最初にやらせてもらうぞ。乗るドラゴンはどれだ?」

 コイツには魔法よりも、一般道徳と倫理を先に教え込んだ方が良さそうだ。まぁ、いい。今は取り敢えずこの的当て試験を受けてもらうとしよう。

「そこに居るドラゴンの背に乗ったら、俺が合図の笛を吹くから、そいつの尻を思い切り叩け。そうしたらドラゴンが前に走り出す。後はその態勢で並べた的を撃ち抜いて行けばいい。真ん中に当てないと零点だからな!」

 ドラゴンは大型のダチョウの様な体型と大きさをしていて、翼は無く二本足で走る。試験用に特別に品種改良された生き物だ。黒髪没個性が面倒くさそうにドラゴンの背に跨がったのを確認してから、俺は合図の笛を思い切り吹いた。

 ピィィィーッ!

 黒髪没個性がドラゴンの尻を平手で勢い良く叩いた。すると

 ボンッ!

 という音と共に白い煙がドラゴンを包み、それが晴れるとそこには位の高そうな衣装を着た美人で巨乳の若い女性が立っていた。

「な、何だ ! ? 」

 呆気に取られていると

「私はこの国を王女ですが、魔王に魔法を掛けられてドラゴンに変えられていたのです。でもこの方が優しくお尻を叩いてくれたおかげで、魔法が解かれ元に戻る事が出来ました。なんて素敵なお方!凄過ぎましゅぅ~!抱いてー!kissしてー!」

 こんなんじゃ試験にならない。

「オイ、代わりのドラゴンを連れて来い!」

 俺は係員に新しいドラゴンを引っ張って来させると

「やり直しだ。コイツに乗って笛を吹いたら、尻を叩いて走らせろ!」

 と黒髪没個性を再びドラゴンの背に乗せた。

「行くぞ」

 ピィィィーッ!

 黒髪没個性がドラゴンの尻を叩く。

 パシーン!

 すると、またしても、ボンッという音と共に白い煙が上がった。煙が晴れると今度は白いロングのワンピースを着た、美人で巨乳の若いエルフの女性が立っていた。

「私は隣のエルフの国の王女です。悪い執事の陰謀で、ドラゴンになる魔法を掛けられて国から追放されていました。でもこのお方のおかげで元の姿に戻る事が出来ました。なんて素敵なお方!抱いてー!舐めてー!」

 何だよ!何でこうなるんだ ! ? 俺は次のドラゴンを連れて来させ、三度(みたび)黒髪没個性をその背に乗せた。

「行くぞ!ハイ、スタート!」

 ピィィィーッ!

 パシーン!

 ボンッ!

 次に現れたのは猫耳と尻尾を付けて貧相な服装をした、美人で巨乳の若い女性だった。

「私は亜人の国から連れて来られた奴隷です。魔法を使える酷い御主人によってドラゴンに変えられていましたが、この素晴らしいお方のおかげで元に戻れました。素敵過ぎましゅぅ~!抱いてー!入れてー!出してー!」

 俺は係員に聞いた。

「替えのドラゴンは後何匹いるんだ?」

「二匹です」

 もう何となく先が読めて来たが、取り敢えず残り二匹の内の一匹を引っ張って来て、黒髪没個性を背中に乗せた。

 ピィィィーッ!パシーン!ボンッ!

 今度はメイド服を着た美人で巨乳の若い女性だ。

「私は役立たずとして王宮を追放された後、悪い魔法使いにドラゴンに変えられていましたが、この尊いお方が人間に戻してくれて、素敵過ぎましゅぅ~!抱いてー!作らせてー!」

 残り一匹だけど、もう試験なんて出来る状態じゃない。どうせコイツも同じだろう!俺は最後の一匹の尻を思い切り叩いた。

 ボンッ!

 最後に登場したのはビキニアーマー姿の美人で巨乳の若い女性の剣士だった。と、確認すると同時に俺は強烈な波動砲を喰らって、空高くフッ飛んだ。

 空を舞う俺の耳に、その女性剣士の言葉が聞こえてきた。

「私は悪い神にドラゴンになる呪いを掛けられていましたが、あの試験官は元に戻った私に色々耐えきれない事をしようと企んでいたのです!絶対そうに決まってます!でも貴方様があの男を吹き飛ばして助けてくれて、神々し過ぎましゅぅ~!素敵ー!味わってー!」

 退職しよう。派遣でも介護職でも何でもいい。どんな仕事でもここよりはマシな筈だ。let's ハローワーク!


 その後、風の噂で聞いた所によると、あの黒髪没個性は五人の美人で巨乳の女性達を侍らせて、学園を首席で卒業した後、国の最高政務官に抜擢され、遂には国王に国政を任され、事実上この国の支配者になったそうな。

 つるかめつるかめ。

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