日常は非日常へ。夏休みが始まる

チリーン チリーン…




目の前の光景が信じられずに僕は目を擦る。




「◼◼?ねぇ、◼◼?ぼーっとしてどうしたの?」




…これは夢だろうか?


驚きのあまり、思わず僕は頬をつねっていた。っ、!


「いたい…?」突然頬をつねった僕に彼女は驚き


僕の手を叩いた。「ちょっと!何、寝ぼけてるの??」


…手が痛い。夢だと思いたいのに、痛みがこれは現実だと


ジリジリと訴えてくる。


痛みが、彼女の視線が


この状況から、目を背けるを許さない。


とりあえず僕は立ち上がり




「ああ、うん。少し寝ぼけてたみたいだ。」




と彼女に返事をする。すると「それなら良かったよ」


と彼女は微笑み、僕が寝ていた木陰から1歩離れる。


「皆もう待ってるよ?」そう話す彼女の声が


チリンチリンと音をたてる風鈴にかき消されて


さっきよりも小さく聞こえた。そんな彼女を横目に


僕はぐるぐると同じことばかり考えていた。




…何故?


何でどうして、




5年前に行方不明になった彼女がココニイル?




「ねぇ、今何年?」「…え?」


「今は西暦2000何年だっけ?」


無意識に、混乱していた僕はいつの間にか


彼女にそう問いかけていた。…しまった、何でこんな


意味のわからない質問をした?


いや、、違う、その理由は分かっていた。


彼女の姿が…記憶と一切変わらないのだ。


それに5年間失踪していたにしては、態度が自然すぎる


姿はまだ一切成長していないという説明がつく。


だが…5年。その歳月は子供だった僕らには


とても大きな変化のはず、なのに


つい昨日まで一緒に居たかのようなそんな態度に


小さな引っかかりを感じたのだ。


だがやはり気のせいだろう、そう思いたい。だが


やっぱり何でもない、と僕が口にする前に彼女はその問いかけに答えた。


否、答えてしまった。




「今は、」


やめてくれ


「確か」


お願いだから答えないで




小さな引っかかりが、


彼女が自然に答える様子から


ある非現実的な現象への確信へと変化していく。




チリリーン……




木に括り付けられた風鈴が一際大きく鳴る


そして…


「2015年だよ?」


不思議そうに答えた彼女を見て


僕はある1つの事実を認めざるを得なかった。


そう


自分が…5年前のあの夏へと、戻ってきたという事を。






事の始まりは遡ること2日前




某都内私立高校内、


夏休み前最後の授業終了まであと10分




夏宮 渚は夢を見ていた。

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