第2話:海外からも目をつけられて

 せっかくだからノエレスが祭りを紹介してくれた。

 ファイリンの国にも祭りはあるにはあるけどポリコレとか思想家しそうかの無法地帯が進んで誰も楽しんでいないし盛り上がっていない。



 馬鹿はこれだから困るといつもファイリンは心の中で権力者に中指をたてて紅茶を飲んで過ごしていた。



 日本の祭りでは人混み以外は嫌な思いをしなくてすんだ。




 日本人だがハンドルネーム・ノエレスはコンプラを守りきっている人間とは思えないほど気さくでどんどん人混みをかき分けて日本の祭りを教えてくれる。



「待ってくれよ。完全な都会暮らしじゃないんだろ?そんないそがなくたって……」



 的当てをしたかったからか、それか的当てをファイリンに紹介したかったのか二十一歳とは思えない子供のような笑顔で秘密のブースを教えてくれた。



 それが的当てか。

 ファイリンも射撃の腕はあるからとやってみたがなかなか当たらない。



「ね。それとこれとは違うでしょ」



「そんなしたり顔で言うなぁ!ノエレス!軽々と一等当てたことを自慢してまったく」



 的当てで何言ってるんだと思われるが彼は只者ただものじゃないのかもしれない。




 自国ではふだん格闘技ばかりしていたり、オフは裏で人種差別で喧嘩していたり、言い合っている人間ばかりでうんざりしながら一日を過ごしていたがここでは外国人観光客がいても同じ人間で違う考えがあるだけだと盛り上がれた。



 まったく。

 祭りのときだから楽しめているのかもしれないなあ。

 色々と時代遅れと日本は同族どうしで言い争ってるが進み続ける人生って難しいんだぜ。

 特に格闘技やってると。



 さすがに疲れたのでノエレスと共に休憩していた。

 りんご飴にいちご飴と成人すぎた男二人が祭りでこんなことをしても許される空間は好きだ。



「ところでノエレスって、自分で言うのも変だが実質初対面の英国ファイターを見て何も思わないのか?」



 こちらの情報はある程度教えていた。

 ビジネスマンじゃないから肩書きなんて言う必要はないと思ったが、縦社会たてしゃかいの文化がなくても歳下の人間がここまでコンプラを守っているからと言って自分も秘密にする必要は無いからと一応素性の一部は話していた。



「大事な友達に偏見へんけんなんてしない。あとインターネットとはいえ長い付き合いじゃないか」



 たしかにそうなんだけどさ。

 いつもは気丈きじょうにふるまってるファイリンも祭りで浮かれてるから二十三歳の青年として答えたまで。



「だんだん人間関係が分からなくなってくる。そうは思わないかノエレス?」



「まあ、それは同意かもしれない」



 暗いことは言わないようにしていたが案外似たもの同士なのかもしれない。

 ファイリンはノエレスにコンプラを違反しないようにフランクに接しようと態度をやわらかくしようとした。



 すると柄の悪いおそらく同世代の海外出身らしき人間たちがこちらへ向かっていた。



 ノエレスの顔つきが変わり、ファイリンも急いで自然な形でその場を去る。



 なんで急にこんなことに?

 祭りの場所から遠く離れて、有刺鉄線ゆうしてっせんが多く存在する場所まで走り続けた。

 ノエレスにこんな切り替えが出来るなんて。



 ファイリンはあえて日本語で聞いてみた。



「俺たち一般人から貴重品奪うつもりかよ。警察呼ぶぞ!」



 まあそれで大人しくさがるなら狙わないよなあ。

 ノエレスはこのことについて話し始めた。



「外国人観光客を狙う犯罪が日本では起きてる。人間の考えることは理屈でごまかせても貧しいとやることはひとつだ」



 ここまで追いかけてまで狙ってくるということはもしかしたらファイリンが名のあるプロファイターであることがバレてるのか?



 ノエレスに耳打ちすると考え過ぎだと言ってくれた。



 なかなかけず、体力がバテる前に二人はチンピラを相手にする。



「ノエレス!格闘技術なんてあるのか?だとしても体格的に不利だ!ここは俺に任せろ!」



 それを言うとノエレスの火をつけてしまったのか踏み込んだチンピラの刃物による先手をかわし、ノエレスは上から攻撃をしかけた。



 肘ありの攻撃?しかも手慣れている上にチンピラに致命傷は与えていない。これはムエタイの技?

 そうだとしても器用すぎる。



 こちらも緊張をとかず、後ろから刺そうとしたチンピラの攻撃をジャンプでかわして刃物を張り手で落としてからあまり使いたくないMMAの護身術で体格差のあるチンピラを倒す。



「雑魚が!ここで眠っていればいいものを! 」



 チンピラの方がやられているのになぜか強気だ。

 きっと傭兵ようへい経験があるのかもしれない。



 二人のチンピラを倒した後、フィクションであるように手をパンパン払っていると



「ジャパニーズ・スラッシュ!この方がかっこつくだろ!」



 包丁を持った三人目の男が意味不明な供述きょうじゅつをしながら向かってきた。



 油断はしてなかったが間一髪かんいっぱつ当たるところだった。



「ノエレス。ここは俺にやらせてくれ」



 峰打みねうちは得意だったので狂人を気絶させることはわけなかった。



 ノエレスと共にファイリンはハイタッチし、また祭りの場へ戻ろうとする。



 するとチンピラは何かつぶやいていた。



「オー……ロラ…が…出た今…お前たちの…へいわは…もうすぐ…なく…なる…」



 オーロラ?

 最近寒くない日本の地域でもみえるようになったあの現象?



 何が関係あるのか分からないが警察を呼ぶのも面倒になったからさっさとここを出ていく。



「ノエレスがムエタイ…いや、それも秘密か。とにかく助けてくれてありがとう」



 ノエレスは黙ってうなずくだけだった。

 だからファイリンがファイターでもなんとも思わなかったの……だろうか。



 こういう優しさとは違う思いやりを経験したのはおそらく初めてだった。

 そして身長差があったとはいえあれだけ戦える日本人もそうそう見ないのでノエレスとは良き友であろうと決意する。



 なんか気になることばかりだった。

 祭りの場へ戻った時に花火を生で見てテンションが上がり、二人でアナログのカメラで写真を撮った。



 やっぱインターネットに頼りすぎない生活であちこち旅したい。

 ノエレスと一緒ならそれもかないそうだ。



 自国での生活や興行も好きだったが考え直すいい機会にもなった。



 気分転換も必要だ。

 まだ旅のスケジュールは残っている。



 それと心の底からこんなスリルを味わっていてニンゲンだましいは失ってなかったことが何よりも生きている実感がした。



「さてと。次はどこを紹介してくれる?」



 ノエレスがスケジュールを教えてくれた。

 頼れる友をもっと他の国でも増やしたい。



 ファイリンは他国での息抜きをさらに存分に楽しむつもりだった。



 次は北国である北海道。

 予算がこちらもちとはいえまた大回りだ。



 こうやってぶっつけ本番で宿を取ろうとするのも楽しいものだ。



 次はチンピラがいないといいなあ。

 ファイリンも平和だからこそもう余計な体力は使いたくなかった。



 そしてこの祭りと花火は最高だ。

 今日はその思い出だけでいい。



 夜はクレープを二人で食べた。

 女友達も誘おうと成人とか関係ないやり取りをたがいに出来て高まるものができた。



 北海道ではどう過ごそう。

 寒さは別に気にしなくていいか。


 旅は悩むことばかり。

 それもまた楽しみだからいい。

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