第17話
御霊は背筋を伸ばしていつものように部屋の隅に控えている。集まっているのは大庭四兄弟と梶原景時の鎌倉党の面々であった。
景時は懐から書状を取り出し、それを広げながら口を開く。
「三浦の義明殿からの書状だ」
三浦義明。鎌倉党の長年対立する三浦党の惣領である。時に大庭御厨に侵攻したり、逆に鎌倉党が三浦党の領内に侵攻したりする、鎌倉党にとっては不倶戴天の敵とも言える存在である。
そんな三浦党の惣領からの書状。内容に予想はつくとは言え、全員が真剣な表情になり、それをみていた御霊も背筋を伸ばす。
書状の内容を確認した景親は御霊をみる。
「御霊」
「はっ」
「読んでみるがよい」
「はっ」
御霊は景親から書状を受け取り内容を確認する。そして驚いた。
「これは達筆ですね」
御霊が思わずといった感じで零れた言葉に全員から笑い声がでる。
鎌倉党の面々は都や都を牛耳る平家とやりとりをするので字も綺麗で、礼儀作法もしっかりしている。しかし、それは坂東武者には珍しく、坂東には字を書けない武士も珍しくない。
しかし、義明からの書状は見事な字で達筆に書かれていた。
景親は苦笑しながら口を開く。
「義明殿は帝のご命令で九尾の狐の討伐にでたこともある。元々は源氏につらなる者だが都とも繋がりがある武士だ。当然、字も書ける」
「し、失礼しました。勉強不足でございました」
頭を下げる御霊を止めて、景親は内容を読むように言う。御霊は言葉の通りに書状の内容を確認する。するとそこには三浦党の領内に現れた天狗を討伐するので力を貸して欲しい、という内容が書かれていた。
御霊は興奮しながら景親をみる。
「景親様っ、これはっ」
「三浦党から鎌倉党への援軍依頼……と言えるであろうな」
相模武士の代表格である三浦党と鎌倉党。この両党が対立していることは相模に住む者ならば誰しも知るところである。そして民はこの両党が繋がれば相模から戦がなくなると信じている。
そしてそれは大庭御厨の民である御霊も同じ気持ちである。
「景親様、これを機会に三浦党と手を結ぶことも?」
「それは飛躍しすぎだ、御霊。だが、関係改善の機会にはなろう」
御霊の言葉は景親に苦笑されながら否定されたが、それでも関係改善をしないと明言されなかっただけで御霊には嬉しかった。
「御霊、今回の天狗退治は今までの天魔退治とはわけが違う。前回の義平殿より厳しい戦いになろう。それでも良いか?」
「もとより覚悟の上です」
天狗との戦いに備えて御霊も短い間であるが自分の鍛えた。全ては憎むべき天魔を祓うため。そして今回は相模の平穏もかかっている。
そして何より世話になっている鎌倉党の面々への恩返しになる。
御霊が命をかけるには充分すぎる理由であった。
御霊の言葉に景親は力強く頷いて景能、景久、景俊、景時を見渡す。
「出立は七日後。留守居は兄者に任せる」
「任せておけ」
景親の言葉に景能も力強く頷く。
「よいか皆の衆、これは相模解放のための第一歩ぞ」
『おぉっ』
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