第13話

「傷を負った者は屋敷の奥だ。まだ動ける者は呼吸を整えておけっ、またすぐに来るぞっ」

 御霊達が岡崎の屋敷に来ると、そこは人で溢れかえっていた。武装しながら外をみている者、傷を抑えながら呻いている者、怖がっている子供。様々な人々が岡崎の屋敷に詰めかけていた。

 御霊達がやってきていることに気づいたのか、義実が御霊達のところにやってくる。義実本人も額から血を流している。

「大庭一党か。手助け感謝する」

「義実殿、これは一体何事だ」

 景親の言葉に義実は憎々し気に吐き捨てた。

「天狗の奴が大量に天魔を呼び出していきおった。そのせいで岡崎中に天魔が跋扈しておる。しかも天狗の奴は死鬼まで呼びおったわっ」

 義実からでた死鬼という単語に景親、景久、景時に緊張が走る。だが、御霊は死鬼という存在がわからず、首を傾げることしかできない。

 だが、それは景季も同じであったのか小声で御霊に話しかけてきた。

「おい御霊。死鬼とはなんだ」

「死鬼とは死んだ者を鬼として蘇らせる術だ。その力は鬼や天狗に比べれば低いが、我ら人の身からしたら脅威には変わらぬ」

 景時の説明に御霊と景季は納得するように首を振る。

 そして景季が何かに気づいたように大声をあげた。

「天狗だけでなく、その死鬼まで相手にせねばならんのかっ」

「安心せい梶原の童。天狗はすでに我らで三浦に追い返した。だが、そのせいで儂の郎党で無傷の者はおらん状況だがな」

 どうやらこの切迫した事態に義実はすでに岡崎衆だけで天狗討伐にでて、追い返すことに成功した様子である。

 小走りで駆け寄ってきた郎党から報告を聞いて義実の表情が歪む。

「愉快な報告ではなさそうだな」

「最悪だ、景親殿。動ける者をこの屋敷の防備等に割けば、岡崎衆に死鬼を討伐できる者がおらん」

 義実が悔しそうに地面を踏み鳴らしながらそう言うと、景親は眼を手で覆って思わず空を見上げる。

「と、なると我らだけで死鬼を討伐するしかないであろうな」

「景久、事はそう易くはないぞ」

「だが景親兄者、儂らは最初は天狗討伐のつもりで来ておるのだ。それが死鬼になろうと対しては変わるまい」

 そこまで言うと景久はニヤリと笑いながら口を開く。

「何せ天狗だろうが死鬼であろうが命が危ういのは大きく変わらぬ。それに儂らには御霊がおる。一方的にやられるだけでなく、こちらが向こうを殺すことができるのは大きいぞ」

 景久の言葉に全員の視線が御霊に向く。その視線を受けながら御霊は小さく震えながらも口を開く。

「び、微力を尽くす所存ですっ」

「御霊、そこは『任せてくださいっ』と胸を張って言うべきであろうなぁ」

「す、すいません兄者」

 笑いながら茶々をいれた景季に御霊は慌てて頭を下げる。

 そんな二人を優しい表情でみていた景親はすぐに真剣な表情になって義実に向かう。

「義実殿、死鬼はどこにおる」

「やってくれるのか?」

「ここを放置すれば梶原や大庭御厨にまで被害が及ぶ。見過ごすことはできまい」

「感謝する。死鬼は亀谷から動いておらぬはずだ」

「義実殿、私達は死鬼まで消耗は避けたい。亀谷までの天魔は岡崎衆にどうにかして欲しい」

 景時の付け足した言葉に義実は力強く頷く。

「岡崎の地を守るためだ。必ず道は開こう」

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