第12話

「そらっ、いまだ御霊っ」

「は」

 景久の声に、御霊は刀を抜いて景久と景季が抑え込んでいる天魔に神通力を流し込んだ刀を突き刺す。すると天魔は断末魔をあげながら塵となって消えた。

 それをみて安堵のため息を吐く御霊に、肩を回しながら景季が話しかけてくる。

「しかし、岡崎は酷いな。そこら中が天魔だらけだ」

 景季の言葉に御霊は頷く。

 御霊は景親と景久に連れられて鎌倉の地へと入っていた。梶原屋敷で景時、景季父子と合流した後、景時の先導で天狗が入り込んだ亀谷へと向かったのである。

 しかし、その道中は天魔に溢れかえっていた。

 真剣な表情で話し合っている景親と景時、そして呼ばれてそちらにいった景久を見ながら御霊は景季に問いかける。

「梶原もこのような事態に?」

「まさか。なっていたらすぐに御霊を呼んでおったろうよ。確かにちょいと数は増えたがこんなにじゃない」

「ということは」

「まぁ、十中八九鎌倉に入り込んだ天狗の仕業であろうな」

 荒神の一種である天狗。古来より人間に協力したり敵対したりとしていた天魔である。京の鞍馬に住む鞍馬天狗と呼ばれる天狗は武士や公家に陰陽術を教えるなど、人に友好的な存在がいる一方で、今回の天狗のように人の生活を脅かす存在もいるなど、同じ天狗と言っても多様性に満ちている。

「兄者は鎌倉に入り込んだ天狗を討とうとはしなかったのですか?」

「武装した俺が下手に岡崎に入れば三浦と戦になるわ」

 景季の言葉に御霊はそんなものか、と頷く。元々漁民の子である御霊には土地を守ろうとする武士の考えは理解ができないところがある。

 そんな御霊の肩に景季はニヤニヤと笑いながら手を回す。

「だが、そんな三浦の連中が俺達に助けを求めてきたのは愉快だ。いっそのこと天狗の奴に岡崎を片付けてもらってから俺達がその天狗を討てばいいのだ。そうすれば岡崎の地は俺達のものよ」

「ですが、それだと民にも被害がでるのでは?」

「む、そうか。流石にそれはまずいな」

 御霊の突っ込みに景季は顔を顰めながら頷く。景季は三浦がどうなろうが知ったことではないが、その被害が民にまででるのはまずいと思うらしい。

 そんな景季の小さな優しさに嬉しくなりながら御霊は言葉を続ける。

「それにこのまま放っておけば梶原まで被害がでかねません」

「だな。被害は岡崎だけにしてさっさと天狗の奴を討ってしまおう」

 景季の言葉が終わるちょうどに、話し合っていた景親達がやってくる。

「一度、岡崎の屋敷に向かうぞ」

「直接亀谷にいくのではなかったのですか?」

 景親の屋敷にやってきた義実から鎌倉に入り込んだ天狗のねぐらは聞き出していた。今回、景親達は直接そこに出向いて叩くつもりであった。

 御霊の言葉に景親が答える。

「想像以上に状況が悪化している。一度岡崎の屋敷に向かって増援をもらおう」

「三浦に増援をもらうのか?」

 景親の言葉に露骨に嫌そうな声をあげたのは景季だ。だが、景時の一睨みで景季は舌打ちをしてからそっぽを向いた。

 そんな反応に呆れたため息を吐きながら言葉を続ける。

「鎌倉党と三浦党の共闘ということなら三浦の者もいたほうがいい。それにこれだけの天魔だ。人手は多いに越したことはない」

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