第7話

 鎌倉党が集まった宴席の三日後、御霊は景親に連れられて景能の屋敷のある懐島へと向かっていた。

 馬上の景親に向かって御霊は話しかける。

「景能様は私に何の御用でしょうか」

「む」

 御霊の問いに景親は少しだけ表情を曇らせるが、すぐに柔らかく笑う。

「兄者が御霊に頼みたいというのだ。当然、天魔のことであろうな」

「天魔が相手でしたら景久様や景俊様もお呼びにならなくては」

「なに、儂と兄者の郎党でも事足りる相手よ」

「景親様はどのような天魔が知っているのですか」

「……よう知っておる」

 御霊の言葉に少しだけ悲しそうに景親は言う。その表情を御霊も深く問いかけないほうがいいと思い、御霊は気分を変えるために周囲を見渡してみる。

 整備された街道と広がった田畑。そして海のほうを臨めば広大な砂丘が広がっており、海上には漁をしていると思わしき船がでている。

「懐かしいか?」

「は?」

「漁のことよ。最近でていなかろう」

 御霊は元々漁民の子供だ。それが神通力という希少な力を持っていたために大庭御厨を支配する景親に引き取られた。

 景親に引き取られてからも御霊は頻繁に漁にでた。それは自分の親を思い出すための行為でもあった。

 だが、最近は種々の鍛錬等に時間がとられ、漁にでられていなかった。

 だから御霊は素直な気持ちを言うことにした。親代わりであり祖父のような存在である景親に嘘をつきたくなかったのだ。

「でたい、と思っております。海にでると何か、力をもらえる気がするのです」

 御霊の言葉に景親は微笑む。

「なるほど、ならば今度一緒に漁にでてみるか」

「景親様がですかっ」

 御霊の驚いた言葉に景親がからからと笑う。

「なに、これでも幼い頃は父上に隠れて兄者や景久、景俊と一緒に船をだして漁をしていた。長じてからは色々と煩雑で行く機会がなかったがな。たまには良かろう」

「楽しみにしておりますっ」

 御霊の瞳には喜びが満ちている。景親と一緒に漁ができるのが本当に嬉しいのだろう。

 景親は心なしか足取りも軽くなった御霊を微笑ましく見つめつつ、目的地である懐島の景能屋敷を視界に収めるのだった。

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