第6話

 宴席の隅でお琴と御霊、そして景季が戯れているのを景親は微笑ましくみつめる。子供を早くに亡くし、妻もすでにない景親にとってはお琴は数少ない自分の血族だ。頻繁に兄・景能や景久、景俊やその家族が訪れてくれるが、やはり自分の家族というのは可愛いものである。

「景親、聞いているか?」

「む、いや。すまない景時。聞いていなかった」

 景時の言葉に景親は素直に謝る。それを聞いて景時は呆れたようにため息を吐き、景能は楽しそうに笑った。

 景能は笑顔のまま口を開く。

「だから言ったろう、景時。この席では景親がまともに話は聞けんとな」

「だが景能。これは鎌倉党にとって大事な事だ」

「すまぬ、景時。もう一度言ってくれ」

 頭を下げながらの景親の言葉に景時は真剣な表情を浮かべて口を開く。

「江ノ島の龍神を討つなら今しかない」

 景時の言葉に景親は息を飲む。

 その反応を気にせずに景時は言葉を続ける。

「三浦党の領内では十三匹の天狗が暴れまわり、こちらに兵を出す余裕はない。そして我々には龍神を殺すことのできる御霊がいる」

 腕を組み考え込む景親に景時は言葉を続ける。

「祖、権五郎景正様の仇を討ち、我ら鎌倉党の宿敵である江ノ島の龍神を討つのだ。そうすれば大庭御厨と鎌倉のみならず、相模に跳梁跋扈する天魔供も片付くのだ」

「一つ懸念がある」

「聞こう」

「御霊が龍神を討つことができるのか?」

 景親の言葉に景時の表情が曇る。そして景親は自分の知っていることを話す。

「都に居た時、平知盛様から鬼や天狗等の神々に等しい天魔を討つには強大な神通力を必要とする、と聞いた。確かに幼少の頃から鍛錬を続けた御霊の神通力も強くなった。だが、陰陽術に疎い我らには御霊の神通力が龍神を討つことができるほどのものかわからぬ。意気揚々と江ノ島に乗り込み龍神に御霊の神通力が通じなければ最悪だぞ」

 景親の言葉に景時が難しい表情をして腕を組む。景親の言葉も正しいと思ったからだ。

 するとそれを聞いていた景能が小さく手を叩いた。

「ならば試すしかあるまい」

「試すとは?」

「龍神の力に匹敵する、もしくは龍神の力を持っている者を御霊の神通力が殺せるかどうかをな」

「だが、龍神の力に匹敵する力か龍神の力を持っている者などおるまい」

 景時の言葉に景親は何かに気づく。

「兄者っ、まさかっ」

 景親の言葉に景能は黙って頷く。そして景能は景時に告げる。

「龍神の力を持っている者ならば儂に心当たりがある。景時、お主は三浦党と交渉して三浦党内で暴れ回っている天狗供を儂らに討伐させるようにせい」

 その言葉に景時は少し難しい表情をするが、すぐに頷く。

「承知した。三浦との交渉は任せろ」

「頼むぞ」

 景能の言葉に頷くと景時は立ち上がって景季のところに向かい、そして大声で景季の説教を始めた。そして景久や景俊などは止めるどころか囃し立て始めた。

 その光景を微笑ましくみている景能に景親は確認するように声をかける。

「兄者、本当にいいのか?」

 その言葉に景能は優しい瞳の中に一抹の寂しさを持ちながら口を開く。

「この日のために産まれた、と思うしかなかろう」

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