第3話

 御霊は天魔の討伐が終わった後、片付けを大庭党の郎党に任せ、江ノ島をみている。

「江ノ島をみているのか?」

「景親様」

 近寄ってきた景親に地面に座って頭を下げようとする御霊を止めると景親は言葉を続ける。

「ここ、大庭御厨は他の相模の国に比べて天魔の出現が多い。何故だがわかるか?」

「いえ、わかりません」

 他を知らない御霊にとっては世界は大庭御厨でしかない。時折、大庭党の土地で鎌倉に隣国の三浦党が侵攻してくることもあるようだが、そちらは景親の従兄弟である梶原景時がどうにかしているそうである。だが、大庭御厨や鎌倉は数多くの天魔が発生し、陰陽師として働く御霊は大庭御厨や鎌倉の土地を飛び回っていた。

「大庭御厨に天魔の発生が多い理由があそこだ」

 そう言って景親は指差す。

「江ノ島、ですか?」

 景親の言葉に御霊が問い返すと、景親は頷きながら言葉を続ける。

「古の霊島・江ノ島。古代から続く鬼や天狗といった神々が消えていく中で、数少ない神が住む島だ」

「神様がいるのですか?」

「龍神という神がな」

 御霊にとって神々とは信仰の対象だ。だが、景親の言葉にはどこか苦々しさがあった。

「江ノ島に住む龍神。その龍神から溢れだす神通力で大庭御厨には天魔が数多く発生している」

 その言葉に御霊は驚いた。数多くの大庭御厨の住民は霊島・江ノ島をありたがっているのだが、実際には大庭御厨の住民を苦しめている天魔の発生はその江ノ島に住む龍神のせいだというのだ。

「各地の神々は討伐されたり、あるいは消えていくにも関わらず江ノ島の龍神は未だに健在だ」

「江ノ島の龍神を討とうとはしないのですか?」

「したさ。我ら大庭党の祖であり、豪勇を持って知られる鎌倉の権五郎景正様が龍神を討つべく単身、江ノ島へと向かった」

 鎌倉の権五郎景正と言えば鎌倉や大庭御厨地域で知る者がいないほどの英雄だ。その豪勇を持って鎌倉や大庭御厨地域をまとめあげた。それこそ鎌倉や大庭御厨に住む者は童でも知っているほどの人物だ。

「鎌倉の権五郎景正様ほどのお方ならば……」

「御霊」

 御霊の言葉を遮って景親は言葉を続ける。

「権五郎景正様は帰ってきていない」

「っ」

 景正は帰ってきていない。つまりそれは景正ほどの豪勇の士でも龍神には勝てなかったということだ。

「だが、いずれ殺さねばならぬ。鎌倉や大庭御厨のためにもな」

 景親の言葉に御霊は黙って聞いた。

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