第2話
御霊の一番古い記憶は血塗られた自分の家であった。
家族を皆殺しにしてその死体を食べ漁っていた天魔と呼ばれる異形の存在。一般に『鬼』と呼ばれる天魔は、帰宅して唖然としていた御霊に気づき、舌なめずりをした。
御霊は自分の住む大庭御厨片瀬川流域を治める武士である大庭景親の屋敷から帰ってきたところであった。景親が家族と一緒に食べるようにと持たせてくれた果物をその場に落とす。天魔が血塗られた口を舌なめずりすると御霊はその場に腰を抜かせて座り込んだ。
ゆっくりと近寄ってくる天魔。御霊は逃げることもできない。
そして天魔の鋭利な指先が御霊に触れた瞬間にそれは起きた。
御霊から放たれた巨大な光と爆発。その爆発は天魔だけでなく、御霊の家族であったもの、そして御霊の家をも吹き飛ばした。
爆心地の中央で座り込んでいた御霊を保護したのは、光をみてやってきた景親であった。景親はたどたどしく説明されたことを御霊から聞くと、御霊に神通力があることを見抜き、屋敷で保護することにした。
最初は心を閉ざしていた御霊であったが、優しくも厳しく接してくれる景親やその家族。景親の屋敷に遊びにやってくる景親の兄である懐島景能、弟の俣野景久や豊田景俊などと接して心を開いていった。
様々なことを教えてくれる景能、相撲をとって鍛えてくれる景久、弓矢を教えてくれる景俊。そして親代わりとして面倒をみてくれる景親。御霊にとって大庭四兄弟が親と呼べる存在になっていった。
そして第二の転機が訪れる。
景親の屋敷に流浪の陰陽師がやってきたのだ。
景親はその陰陽師に頼み込み、御霊に天魔と戦える力・陰陽術を教え込んだ。
三年、その陰陽師の下で学んだ御霊は神通力を使いこなす陰陽師となった。そしてその陰陽術を使って大庭御厨に現れる天魔を大庭四兄弟と一緒に祓っていた。
海辺の夜。ここでは武装した武士やその武士の郎党が天魔を取り囲んでいた。
「囲めっ。ここから逃がすなよっ。逃がせば大庭御厨に被害がでるぞっ」
老人というべき年齢になっている景親の言葉に槍を構えている郎党達から鬨の声がでる。
そしてその声に反応するように天魔は一人の郎党に襲い掛かってくる。それを防いだのは郎党の前にでて天魔をガッチリと掴んだ景久であった。
「よし、捕まえたっ」
「景久、離すなよっ」
「任せろ、景親兄者っ」
人の力とは思えない怪力で天魔を掴む景久。必死に振りほどこうとする天魔であったが、景久は掴んで決して離さない。そしてそれに気づいた天魔は持っている牙で景久に襲い掛かろうとした。
だが、その開いた口に矢が突き刺さる。
頭を竦めていた景久は大きく叫ぶ。
「景俊っ、掠ったぞっ」
「だったらもうちょっと頭下げろっ」
景俊の言葉に景久が頭を下げると景俊は矢を放つ。すると今度は景久を切り裂こうとしていた天魔の手を撃ち抜く。その一撃で天魔の態勢が崩れる。すると一気に景久は力を込めた。
「うおぉぉぉぉぉぉっ」
その叫びと共に景久は天魔を投げ倒す。そしてそのまま天魔を押さえつけた。それに槍を構えた大庭の郎党も加わる。
「よしっ、御霊っ」
景親の言葉に短刀に神通力を込めていた御霊は走り出す。御霊はまだ未熟な陰陽師だ。ろくな陰陽術は使えない。だからこうやって天魔の拘束という役割を大庭党の面々が引き受けているのだ。
「いやぁぁぁぁぁぁっ」
少年特有の高い声をあげながら御霊は天魔の顔面に神通力が込められた短刀を突き刺す。
すると天魔は断末魔をあげて消え去っていく。
それを見て歓声をあげる大庭の郎党。疲れたとばかりに倒れこむ景久。安堵のため息をつきながら準備していた矢を仕舞う景俊。
そして全体の指揮をとっていた景親は肩で息をしている御霊に声をかけてくる。
「御霊、よくやってくれた」
「は、はい。景親様」
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