第2話 報せはすぐに届く


俺がタクトを殺したという報せはすぐに王族全員が知ることとなった。

その結果俺は緊急会議に呼ばれた。

緊急会議はなかなか開かれるものではない。

ほんとうに必要なときにしか開かれない。

頻度で言うと数年に一度あるかどうか。

そういう会議を開く原因に俺がなっていた。


集まったのは俺と、それから他の王子。

それから王様。


有力貴族たちなど。

堂々たるメンバーが集まった。


目をこすって眠そうにしている者もいる。

起こされてここにきたのだろう。


だが、知ったことでは無い。

そんな中王様が口を開いた。


「みな、忙しい中よく集まってくれた。眠い者もいるだろう。謝罪しよう」


王が頭を下げた。

それから王は俺に目を向ける。


「オルクス。お前からも謝罪のひとことはないのか?」


「なぜ俺が頭を下げねばならん」


全員の目が俺に向けられた。

今まで興味なさそうにしていたやつも俺のことを見ていた。

それだけの発言をしたのだろう。


「誰のせいでこの会議が開かれたか分かっているのか?」


そう言ったのは、第一王子のサトゥスだった。


めがねをかけたいかにもな堅物だ。


「会議を開いたのは王様だろう?俺じゃない」


「なんという狂気の屁理屈……」


「ん?論破してみろよ。俺が会議を開いたわけではない。そのため俺がこいつらを集めた訳では無い。なぜ俺が謝罪する必要がある?答えてみろ。俺が謝罪する必要性を。俺を納得させてみろ!(納得したら謝るとは言ってない)」


ダン!

俺は机を叩いた。


「むしろ俺は招集された"側"なんだが?謝罪を要求する」


ザワザワ。


「これがあのオルクスなのか?」

「まるで人が変わったようだぞ」

「今までのオルクスなら有り得ん行動だ」

「殺人が人を変えたのか?」


騒がしくなる中、王は俺の顔を見た。


「忙しいところ呼び出してすまなかった」


ぺこりと謝る王様。


「これよりタクト王子殺害の件についての話を進めようと思う」


会議室がすぐに騒がしくなる。

真っ先に口を開いたのは王族だった。


「オルクスを差し出そう」

「向こうの怒りを鎮めるにはそれしかない」


この場において俺の味方をするやつはいなかった。


「異論は無いな?オルクス。もともとはお前が撒いた種だ」


王様に確認を取られた。

どうやら実の父である王様すら俺をそっこうで切り捨てるようだ。

俺に対する愛は無いのか?まぁ、たしかに俺が悪いんだけどさ。


「異論あるに決まってんだろ。俺を助けろよ。お前らは俺の家族だろ?」


俺の言葉を聞いて、サトゥスはワナワナと震え出した。

やがて怒りが爆発したように叫ぶ。


「貴様っ!さっきからなんだその態度は!なにをやらかしたか分かっているのか?!だいたいなんだ?その言い方は。『助けてください』だろ?!」


「ムカついたからタクトを殺した。それだけだろ?なにを騒ぐ必要がある?」


「それが大問題なんだよ!お前はもっと騒げ!」


やれやれ。

俺は肩を竦めた。


「本当に窮地の時にこそ人の本性が現れるというが、お前の本性はそれらしいな?サトゥス。余裕がなさすぎるな」


「誰のせいで俺がブチギレてると思ってるんだ?!お前のせいだぞ!」


ガタッ!

サトゥスはダン!と机を叩いて立ち上がった。


「父上!迅速にこいつを切り捨てましょう。こいつは救えません」


「何を言っているサトゥス。お前らが俺を切り捨てると言うなら俺もこの国を切り捨てるぞ?いいのか?」


「そこで逆ギレすんな!お前は切り捨てられる立場なんだよ!」


俺は立ち上がった。


そして、サトゥスの方へ歩いていった。


「なんだ?オルクス。席に座れ」


「やかましいわ。女々しいんだよお前は」


バキッ。

顔を殴りつけた。


「げふっ……」


ドサッ。

その場に横に倒れたサトゥス。

その横っ面を踏みつけた。


「お前がごちゃごちゃうるさいから一向に話が進まん。そこで床でも舐めていろ」


俺はサトゥスの横っ面を踏みつけながら会議室に目を戻した。

全員、俺から視線を逸らす。

次のターゲットにならないようにだ。


誰だって嫌だろうな。

公衆の面前で横っつら踏みつけられてねじ伏せられるの。


王様ですら目線を逸らしてる。

これ、俺が勝手に話を進めてもいいのかな?


「さて、タクト王子殺害の件について話していこうと思うが。そもそもの話この件でブチギレる可能性があるのはどこの国だと思う?」


現在の国際情勢はこうだ。


俺のいるオルガルド王国は少しばかり孤立している。

いわゆる日本が鎖国していたような状態に近い。

他国との関係はほとんど無い。好かれてもないし嫌われてもいない。


そして、タクトのいたべルマンド王国も似たような感じだ。


この二国は敵もいなければ味方もいないようなそんな国。俺たち2国の間でなにか問題が起きても外野は騒がない。


「この件で切れる奴がいるとしたらべルマンド王国だけだ」


よって、この件で他の国から反感を買うようなことは無いだろう。この先の戦争に発展した場合も同じである。


「仮に戦争に発展した場合、他国の介入がないオルガルドとべルマンドの一騎打ちになるだけだろう」


そして、


「このタイマンに勝つことが出来ればこの件は俺たちの完全勝利で終わりだ。それは分かるな?」


ほとんどの人がこくんと頷いていた。

俺に反論したくないようだ。


「そして、敗戦国の末路というのは単純だ。戦勝国にただ略奪されるための存在」


俺はこの部屋にいた奴ら全員の顔を見た。


「略奪したいだろ?べルマンドの資源はすべて俺たちのもの。べルマンド国民はすべて奴隷。最高じゃないか?」


ザワザワ。


「略奪したい」

「奴隷が欲しい」

「たしかに、ここで戦争をするのはいいかもしれない」


初めは俺を差し出すと言っていた奴らも手のひらを返していた。


そのとき、下から声が聞こえてきた。

サトゥスの声。


「惑わされちゃだめだぁ……ぶはっ!」


サトゥスの横っ面を踏みつけてやった。


「黙った方がいいぞサトゥス」

「この国の未来を考えてくれぇ、みんな。仮にべルマンドを倒したとして、周りからの印象が悪くなるぞ。蛮族の国と言われる」


むぎゅっ。

俺はサトゥスの顔を踏みつけて言った。


「蛮族の国でなにが悪い?」

「味方がいなくなるぞ」

「味方なんていなくたっていいだろう?」

「なっ……」


絶句していた。


味方がいなくなって孤立して、仮に戦争をしかけられても問題ない。


「今のお前みたいに敵対国をねじ伏せて、従わせて。奴隷にすればいい」


全世界が敵になっても構わない。

こうやって、殴ってねじ伏せて。


言うことを聞かせればいいだけなんだから。

それでも従わないなら殺す。


「サトゥス。ひとつ聞きたいことがある」


俺はサトゥスを見下ろして、聞いた。


「お前は俺のなんだ?味方か?敵か?」


ギリギリ。

足に力を込める。


「俺は、あなたの奴隷です」


「よく言った。利口なやつだ。でもさ。一度でも俺に噛み付いた駄犬はいらないんだよ。お前どうせこの後俺にもう一度噛み付くだろ?」


「へっ?」


バキャリ。

サトゥスの頭蓋骨を踏み潰した。


即死。


王族は理不尽なものだ。

だから人が死ぬのは仕方ないよ。


会議室の中を見回した。


「会議はこれにて終わりだ。解散っ!」


答えは出た。

戦争だ。


べルマンドを徹底的に叩きのめす。

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