17.辞書とお葬式

 王宮庭園植物図鑑を作るのに並行して、実は普通の辞書も画策していた。

 単語をどんどんリストにしていき、その意味を簡単に書いていく。

 そういう作業を延々とする。


「できた」


 子供向けの基本語が含まれる国語辞典だった。

 まだ登録単語数は少ないものの、初学者には十分だと思う。


 これまた活版印刷機に回すため、原稿を王宮印刷局に渡して活版印刷してもらう。


「どうじゃ」

「やりましたわね、ちゅ」


 ナーシも褒めてキスしてくれた。

 辞書自体はないこともないけれど、あまり一般的ではなかった。

 これは貴族向けに売れるだろう。あと冒険者ギルドに納品すれば、勉強になると思う。


「先生どうですか」

「いいですね。うちの学生向けにはちょっと語彙が少ないですが、参考書にはなります」

「ですよね」

「一学年分、発注しよう」

「ありがとうございます」


 一年生に持たせて、毎年継承していく方式らしい。

 毎年買ってたらかなりの金額になってしまう。

 先生はちょっとセコいが、堅実なのだろう。


 語彙が植物やモンスターさらに王宮で使われる単語に寄ってしまっている自覚はある。

 でもまぁ、俗語だらけよりはいいかもしれない。


 結果として、貴族たちが僕の作ったメラール大陸語初級辞典をこぞっと教育用に買ってくれた。

 ので、かなりの儲けになった。

 辞書はけっこう高いからね。

 儲かった分で安値で冒険者ギルドに同じものを納入して、冒険者たちの教育にあてた。

 文字は読めても、知らない単語とかがある人も多い。

 自分でギルドの図書室で調べるなら、やはり辞書は欲しいだろう。


「これでまた教育水準が上がるぞ」

「まったくミレルちゃんったら」

「いひひ」


  ◇


 そんなおり、おじいちゃんが亡くなった。

 先王だ。

 長らくご病気でパパに王位をゆずって浜離宮で養成していたのだけど、ついに天からお迎えが来たのだ。


「先王、データル三世が逝去なされた」

「おじいちゃん」

「おじいちゃんか、俺もよくしてくれたのを覚えている」

「お葬式、それから喪に服すわ」

「はい」


 よく抱き上げてくれたのを覚えている。

 高い高いとかもやってくれた。

 よく考えたらすでにご病気だったはずなのに、無茶をする。


 珍しく黒いドレスを着た。

 ロングドレスだけど夏用で生地は薄いから、それほど暑くはない。

 みんなも黒い服だ。

 これがいわゆる喪服だ。世界によっては喪服は白だったり黒だったりする。

 ちなみに姑のおばあちゃんはまだ元気でぴんぴんしてるはずだ。


 王宮のホールでお葬式が開かれた。

 この世界では通夜はない。

 かなりの人徳者だったらしく、あちこちの地方領主や先代領主が集まってきた。


「この度は、お悔やみ申し上げます」

「はい」

「先王には、いつも世話になっていまして……」


 とおじいちゃんの話題をみんなしていく。

 そしていよいよ出棺となった。


 宮殿を出て裏手の道を進んでいく、そのまま森へ入っていく。

 こんなふうに森を通ることになるとは思わなかった。

 葬儀社の列がずっと森の中へ続いていく。


 ついに王宮の森のおじいちゃんのお墓に辿り着いた。

 数メートルある塚だ。

 すでに周りには妖精たちが集まってきていた。

 そのまま奥へと納められる。この時は子供たちは入ってはいけないらしく外で待たされた。


 家族がお墓から出てくる。

 これでお別れだ。


 僕はナーシーとラーナを連れて道から離れて泉へ向かう。

 そこには精霊様が待っていた。


「精霊様」

「データル三世が亡くなったそうですわね」

「うん」

「ついにここへ来ることはありませんでしたが、気配はずっとしていましたから」

「なるほどね」

「よい王であったのでしょう」

「うん、よくしてくれたよ」

「約束の通り、安息を与えることとしましょう」

「はい、よろしくお願いします」


 出会いと別れ。

 これらは必ずセットなのだそうだ。

 僕たちもいつか別れる時が来るのだろか。

 それが死を分かつまで、とか言っちゃったりしてね、えへへ。


■◇□─────


一旦、ここでストップです。ここまでお読み下さりありがとうございます。

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僕は転生お姫様 〜公爵令嬢の幼馴染と百合生活〜 滝川 海老郎 @syuribox

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