14.スメルデス
「いい子です、いい子」
「ヒヒーン」
僕たちは馬に二人乗りしていた。幼女の特権だ。
馬の名前はスメルデス。この前治療した子だった。
「ずいぶん懐いてるですよぉ」
「やっぱり、恩とか感じてるのかな。そんなんじゃないのに」
「馬は賢いですからねぇ」
他の馬にラーナも乗せてもらう。
「よし、それじゃあ森の中を一周してこよう」
「うんっ、ミエルちゃん」
「ラーナも準備いい?」
「はい、な、なんとか」
ラーナも侯爵令嬢なだけあって乗馬の経験があるんだって。
貴族は乗馬って趣味みたいなものだものね。
これで領地の森の中を狩りに出かけたりするんだよ。
僕たちはそれを王宮の森でやってるわけだけどね。
「楽ちん、楽ちん」
「だよね」
視点が高い。お馬さんは賢いので、逐一指示をしなくても歩いてくれる。
地面近くのキノコはちょっと見つけにくいけど、そのかわり木の実を見つけやすい。
ちょっと遠くをリスが走っていくのが見えた。
「リスだ」
「うんうん、色々いるね」
僕が指を差すと、ナーシーも頷いてくれる。
「ピーピピピ」
鳥が鳴いて飛んでいく。
そういえば鳥の話はまだしていなかった。
この森にはまず、野ニワトリがいる。昔王宮の裏庭で飼っていたのが逃げたものの子孫らしい。
それからたくさんの野鳥。スズメ、カラス、ハト、ツバメ、カモ、などの一般的なものから、ウグイス、メジロ、シジュウカラ、ミミズク、フクロウとかの鳥それから、渡り鳥がくることもある。
鳥は空を飛べるから壁とか関係なく飛んでくるのだ。
「あ、木の実、えっとオレンジ」
オレンジが鈴なりになっていた。
僕たちの背では届かないけれど、馬の上からなら手が届く。
「うんしょ、うんしょ」
「いい匂い」
「ねー」
オレンジの木は王都の中でもわりとその辺に植えられている。
リンゴ、ブドウなども植えてある。ブドウは棚になっていて日陰にもなるから人気だ。
それから果物というか野菜なのかな、オリーブも多い。
気候としては温帯かな、たぶん。
「きたきた、ここが墓地だね」
「うん」
一番奥、まだここまで来たことはなかった。
塚がいくつも並んでいて、ここがお墓になっている。
数メートルある塚には草が生えていて、墓地だけど、なんというか基地にある火薬庫みたいな感じ。
あの上に土が被さってて草が生えているところが似てる。
青白い丸いものが沢山浮いている。
「幽霊……じゃないのか、妖精さんだね」
「うん、たぶんそうね。ミレルちゃん」
「そうなのですね、姫様」
ここには歴代の王と家族たちが眠っている。
妖精はその気配が好きで集まってくるようだった。
別にお化け的なアレではない。
「すでにお兄ちゃんのお墓もあるんだっけ、ラーナ?」
「はい。男性は生まれたらすぐに作るんですよ」
「そっか、小さいときに死んじゃうかもしれないもんね」
「まぁ、早いに越したことはないということでしょうね」
「そっか」
僕のお墓はないのだ。
どこかの家に嫁ぐことになる可能性が高いから。
僕がお嫁さんとか全然思いつかないけど。
お兄ちゃんのお墓に居候しようかな。
黒毛のスメルデス。
オスなのか他の馬より一回り大きい。
ラーナの乗っている馬は栗毛だ。
「休憩!」
お馬さんに草を食べさせる。
僕たちもジャーキーを取り出してもぐもぐする。
「んぐんぐ」
「もぐもぐ」
おいちい。
塩気がちょうどよくって、お肉の旨味がジュワって感じられる。
馬の肉ではないと思う。たぶん外の平原で取れるオオカミだと思う。
オオカミ肉は王都では一般的なお肉なのだ。
安いお肉はもうちょっと淡白なホーンラビットのお肉が多い。
ホーンラビット肉も別に不味くはないけど、あまりジャーキー向きではない。
精霊様の泉にも顔を出す。
「相変わらず綺麗だね」
「異常はないわね」
「うん」
一番隅まで行ってみる。
「ここが王宮の壁だ」
「結構高いわ」
数メートルはあり、巨人族でも超えることができなそうだ。
白い石壁がずっと続いている。
この向こう側には堀があって、さらに向こう側には王都が広がっている。
壁一枚であの大都市と森とが隔ててあるのはなんだか不思議だ。
「それじゃ戻ろっか」
「はいっ」
「もうすぐ夕ご飯ですもんね」
「あっまたラーナが僕の事、食いしん坊だって言った」
「あはは」
みんなで馬を走らせる。
あっという間に戻ってくることができた。
お馬さん。スメルデス。
怪我が治ってよかった。
これからもたまにこうやって乗せてもらおう。
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