13.生物濃縮
生物濃縮。
たとえばフグ毒。プランクトンの毒をフグが体内に溜めることで強い毒になるんだって。
生物濃縮かは分からないけど、エビ、カニ、タイ、サケが赤っぽいのも食べ物のプランクトンの色が元になってるんだよ。
「それが生物濃縮なのかしら?」
「うん。それで、このナイフ。泉の周りで生活してたオオダンゴムシから取れたから力が集まってるんだよね」
「そんなことがあるんですね」
「うん」
「へー」
僕もナーシーも棒読みである。呆れかえっている。
これは「ヤバい」気配がする。
とりあえず、王宮の木工職人に鞘と柄のセットを作ってもらった。
「パパ、ママ、お兄ちゃん……よく切れるナイフです。あげますね」
「どこで、こんなものを」
「ちょっとミレル、今度は何をしでかしたの?」
「妹よ、なにをしている」
「しでかしたなんてひどい」
「お転婆娘も度が過ぎると、内宮から出しませんよ」
「ちょ、それは勘弁」
びっくりして急いで逃げる。
うちの家系は水属性が強いから、このナイフと相性いいんだよね。
「パレードがあるから今日はドレス着てね」
「えぇぇ、はーい」
こればかりはしょうがない。
ピンクのドレスを着る。
この金髪と青目を合わせて、西洋人形みたいだ。
「うむ。どう見ても幼女」
「なにやってるのよ。そろそろ出るわ」
「はーい」
みんなでオープンカーの馬車に乗り込む。
「準備はいいかしら」
「はい」
みんな懐にはダンゴムシナイフを忍ばせている。
なんかいいよね、みんなの秘密みたいで。
「出発」
パパパパー、パパパパー。
ラッパが高らかに鳴らされて、王宮から出ていく。
馬車の前には近衛騎士団、後ろにはメイド隊もいる。
お、一丁前にラーナも混ざっていた。
堀を超えて貴族街を進む。
すぐに商業区へと入っていった。
前に行った冒険者ギルド支部もある。
ギルドの三階にはギルド長さんたちが手を振っていたので振り返す。
「おーい」
「ギルドだな」
「うん」
有名なパン屋さん、家具屋さん、洋服屋さん。
いろいろなお店があった。
マーシナル王国学院の前も通る。
「先生! おーい」
「学院か」
「生徒のみんなぁ、おーい」
「二人とも大きくなったら通うんだぞ」
「はーい」
住宅区の表通りも進んでいく。
そうしてこうして、一周して戻ってきた。
「ふう、終わった終わった」
「疲れましたね!」
「ミレルのどこが疲れたんだ」
「僕だって気疲れぐらいするもん」
「そうなのか?」
「ぶーぶー」
あははとみんな笑う。
「ナイフ、心強かったぞ」
「そうだね、さすが妹」
「なぜか、よく切れるもんなぁ」
ナイフを取り出して、構える。
「ほら、見て」
「おぉおぉ、なんだその輝き」
元々ナイフは青白い色をしているんだけど、魔力を通すと青く発光するのだ。
「魔剣だな、なんという」
「え、これってすごいの」
「すごいというか、なんというか」
「へー」
「国に数本あるかどうかという剣と同じなんだぞ、妹よ」
「そうなんだぁ」
王様が魔剣だと言う。お兄ちゃんも知っているらしい。
なんかすごい剣と同じなんだって。
「ねぇねぇ、これ量産したい」
「ダメだろう」
「でも、近衛騎士団に配布したいもん」
「そうか近衛か、ふむ」
王様も考え込んでしまった。
「オオダンゴムシが絶滅しないように、毎年十本ずつ配布しよう」
「それくらいなら、いいか?」
「いいんですか? お父様」
「まあ、うん……」
分かりました。毎年十本ずつですね。
オオダンゴムシの殻、頑張って集めよう。
パレードで見たので錬金術の先生のところへまた向かった。
「先生、見てみて」
「なんだい、ナイフかい」
「ほら、こうすると光る」
「おおおお、すごい。魔剣ですね」
「やっぱり知ってるんだ」
「光る剣それこそ魔剣なり、って昔ばなし知りませんか」
「知らない」
「そうですか、すごいんですよ、それ」
「へー」
先生に渡す。
穂先から光を反射させて細かく見ている。
先生が木の板をナイフで切って見せる。
「おおおお、すごい切れ味」
「ですよねぇ」
「これは欲しい、けれど、無理ですよね?」
「ちょっと無理かなぁ」
「そうですか、いいなぁ王族いいなぁ」
「いひひ」
先生とお茶を飲む。
ずずずー。
「冷えてて美味しい」
「氷魔法……」
また冷茶にしてみた。
最近はこればっかり飲んでいる。
「もう、すごいことばっかり見せて」
「しょうがないじゃん。できちゃうんだから」
「さすがですねぇ。魔剣も研究している人がいるんですよ。見せたら欲しがるから見せちゃ駄目ですよ」
「あ、うん」
「見せてあげたいって思うでしょ、でも欲しいっていうよ」
「そっか……」
ナイフをしまう。
「また何かあったら見せに来ますね」
「ああ、いつでもおいで」
「そういえば、キャンプガイドブックまだ作ってないや」
「また面白そうなことしてますね」
「うん。キャンプガイドは白黒でいいかな」
「それなら生徒たちの出番はありませんな、あっははは」
先生とバイバイして、王宮へ戻るのだった。
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