12.ダンゴムシナイフ

 アイアンダンゴムシの殻が集まってきた。

 中身は料理にして何回か食べたよ。

 本当にエビみたいな味で、白身で表面が赤い。

 旨味と甘味があるので、内宮ではけっこう評判がいい。

 大きいので料理人を始め、興味を示した人とかに配ってみんなで食べたんだ。

 ネギを入れてエビチリみたいにすると、最高に美味しい。

 トマトやお酢ももちろんある。


「それでですね、ぐへへ」

「ミレルちゃん、ヨダレ」

「あ、ああ、見てこの黒いの」

「うん、オオダンゴムシの殻だわ」


 アイアンダンゴムシの殻が十個あまり。


「これをハンマーで粉々にしていきます」

「うんうん」


 ドンドン! ドンドン!

 ちょっと大きな音がするけれど、ここは作業場なので大丈夫だ。


「だいぶ小さくなったわ」

「うん。それじゃあ鍛冶場に行こう」

「そうだね」


 王宮には様々な仕事があるけれど、刃物の手入れをやっている人もいる。

 だから簡易的だけど鍛冶場があるのだ。

 名刀とか作ってるロマンあふれる場所ではないんだけどね。

 包丁とかナタとかハサミとかメンテナンスする場所なんだよ。


「ごめんください」

「おやおや、お姫様とナーシー様」

「えへへ」


 頭を撫でてくれる。

 優しい感じのおじいさんだ。


「オオダンゴムシの殻を砕いたものを持ってきたんですけど」

「へぇ、なるほどね」

「これで、ナイフとか作れますか?」

「できないことはない、けれど、質はあんまり高くないね」

「そうなんだ」

「でも、やってみる価値はあるよね? やりたいんだろ?」

「はいっ」

「いい返事だ」


 炉に石炭、魔石を放り込んで、火力を上げていく。


「すでにけっこう熱い」

「鍛冶場だからねぇ」

「何事も体験しなきゃ、分からないよね」

「そうだ、その通り。えらいぞ」

「えへへ」


「ダンゴムシ、そろそろ入れていいぞ」

「うん」


 上からダンゴムシの殻を砕いたものを投入する。

 しばらく待つ。


「いいかな、ほい」


 栓を抜くと、そこから鉄の塊が出てくるのだ。


「おおお、真っ赤、真っ赤か」

「触るんじゃねえぞ」

「分かってますぅ」


 僕が身を乗り出したから心配してくれたのだろう。

 ナイフの型に鉄が注ぎ込まれていく。

 それが五個分並んでいる。


「ほい、まずは基本はこれでいい。休憩にしよう」

「はーい」


 オオダンゴムシのエビチリを持ってきてもらう。


「うまいな、これ」

「でしょう」

「これがダンゴムシねぇ」

「そうだよ」

「王宮の森もなかなかいいな」

「普通の人は入れないんだっけ」

「そうだぞ。俺たちは出入り禁止だ」

「へぇ」

「鎮守の森っていって、歴代王が眠ってるからなぁ」

「あはは、お化け怖い?」

「まさか、あははは」


 おじいさんが怖がるようには確かに見えない。

 笑われちゃった。


 ハーブティーも飲む。

 えっへん。僕が出した氷で冷やしてある特製だ。


「なんだこれ、冷えてるじゃねえか」

「王女様特製、アイス」

「王女様って、そうか、魔法が使えるのか?」

「うん」

「さすが、やんごとなき血だな」

「そうでしょ」


 暑い日に飲むアイスティーは最高ですな。

 アイスの魔法は使える人が少ないのだ。

 それであまり氷で冷やす習慣がない。

 冷蔵庫はあるんだけどね。なんというか野菜用というか。

 マジックバッグもあるので、あまり冷蔵庫はまだ注目されていないというか。


「よし再開だ」

「うんっ」

「はいっ」

「よし、お嬢様たち、やるぞ」


 おじいちゃんが鎚を出してくる。


「これで叩くんだ。叩くと強くなる」

「へぇ」


 すでに塊になったナイフをカンッ、カンッ、カンッとリズムよく叩いていく。


「おおぉおお」

「すごいですね」


 カンッ、カンッ、カンッ。


 形を整えつつ何回も叩いて、そして折り返してまた叩く。

 そうこうしているうちに出来たのか水にジュワッと入れる。


「焼き入れってんだ」

「へぇ、これが」

「あとは研いで終わりだな、次いくぞ」

「はいっ」


 五本すべて作業してしまう。

 小さなナイフだからなんとかできるけれど、剣のサイズだと一日に一個くらいが限界かもしれない。


「ふぅ終わり」

「ありがとうございました!」

「研ぐのは、おーい、エルニー、エルニーいるか」

「おじいちゃん、いるわよ」

「お客さんだ。ナイフ五本、研ぎから仕上げまで」

「おお、ナイフね。了解」


 お姉さんだ。

 頭にバンダナを巻いている。赤毛が綺麗だ。


「ほら、研ぐよ」

「はいっ」


 鍛冶場の横にある作業場へと入っていく。

 回転式の砥石があった。ちょっと現代的でびっくりした。


「これって?」

「ん? 研ぎ機かい? 魔道具だね」

「へぇ」


 そっか魔道具にも回転するものはある。

 扇風機も一応はある、珍しいけど。


 ビイイイン。


「すごいすごい」


 みるみるうちに研がれてナイフができちゃった。

 ダンゴムシナイフが五本、完成した。


 試しに藁とか木の枝とか切ってみる。


 スパーン。


 あれ、なんか切れ味おかしくない?

 質は高くないっていう話はどこに。

 実はなんか、すごいナイフなのでは。

 だって、改めて見てみると、なんか水の精霊様の力が宿ってるよ?

 水を通して精霊様の力が生物濃縮されちゃってるよ、これ。


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