11.森キャンプ

 それからまた一週間ほど経った。


「やったね、ナーシー」

「はい。ついにキャンプですね」


 この前、同行してくれた近衛騎士団のバケルトさんの助言もあり、キャンプが実現したのだ。


 今日はバケルトさんとラーナの荷物が多い。

 といってもマジックバッグにみんな入っているので、背負っているわけではない。

 これがまだお金がない新人冒険者や、旅商人とかだと荷物一式を背負って歩くというからすごい。


「さて夕ご飯は何にしようか」

「そうですねぇ」

「現地調達にしよっか。ラーナできる?」

「はい、もちろんですよ」


 塩や胡椒など採れないものはもちろん持ってきている。


「見てみて、これ。サトイモ」

「おおお、さすがミレルちゃん」

「お芋ですか?」

「うん。みんなで掘ろう」


 丸いハート形の大きな葉っぱ。この葉っぱは目立つ。

 以前から何度も目撃していたけどスルーしていたのだ。

 これがサトイモだ。

 栽培種だと思うんだけど、森にも植えられていたのだ。

 ナイフなどを使って土を掘っていく。

 すると、出るわ出るわ。

 サトイモは親芋のまわりに子芋がたくさんくっついているので、周りを掘って、一度に全部収穫する。


「採れた!」

「やりましたねお姫様」

「素晴らしいです。ミレル様」

「えへへ」


 そして次の親芋になる分を戻して再び埋めた。

 再び森の中を歩いていく。


「きゃっ」

「おお、大きなクモだね」

「うん」


 ラーナがびっくりしたけど、僕が冷静に言って、ナーシーも平気みたい。

 後ろではバケルトさんも頷いている。

 二十センチくらいの黒いクモだ。

 種類までは分からない。


「外の森にはシルクスパイダーとかアサシンスパイダーとかがいるんだっけ」

「そうですね。その通りです。どちらも怖いですよ」

「へぇ」


 シルクスパイダーはシルクのような糸を出すモンスターだ。

 アサシンスパイダーはその名の通り、木から音もなく降りてきて人を襲うという。

 大きさは最大一メートルにもなる。

 森で活動するなら気を付けないといけない魔物だ。

 どちらも、モンスターガイドに掲載されている。


「そうだ。キャンプガイドとかどうかな?」

「そういうのもあると便利かもしれないわね」

「でしょ、ナーシー。どう思う、ラーナ、バケルトさん?」

「そうですね。私もあったらいいかも」

「初心者冒険者が欲しがるかもしれませんね! さすが天使様」


 森を進みながら手頃の枝をマジックバッグに放り込んで歩く。


「この枝なんかよさそう」

「はい」


 木を見上げたり、下草を眺めて歩く。


「お! ホーンラビットだ」

「ほんとだ!」


 ナイフでぶすり。ホーンラビットを仕留めた。


「これが今晩の夕食だね」

「ちょっと可哀想だけど」

「まぁね」

「お肉だよお肉」


 そのままマジックバッグに入れてしまう。

 バッグに入っていればそれほど痛んだりしないのだ。


「今日はここでキャンプにしましょう」

「はーい」


 バケルトさんが場所を告げたので、皆で従う。

 荷物を降ろして、テントを出して設営する。

 場所は沢の近くだ。一メートルでもいいので上流側の高い位置にする。

 よく平らでひらけているので河川敷にテントを張ろうとしたりするけれど、増水時に心配だ。

 それから木が少しなくて、広いところ。外の森ではアサシンスパイダーに襲撃されないように、木の真下は避ける。

 というようなことをバケルトさんに教わる。


「えいしょ、えいしょ」

「はい、テント完成!」


 僕とラーナ。ナーシーとバケルトさんだ。

 二つのテントを組み立て終わると真ん中に焚火を作る。


「拾ってきた薪を置いてっと」

「はい、では火をつけてください」

「うん! ファイア」


 僕が火魔法でちゃっちゃと火をつける。

 こういうとき魔法が使えると便利だ。

 火魔法も使えなくて火打石とかを使っている人もいる。

 人の適性はいろいろだからね。


 沢でホーンラビットを解体していく。内臓を取りよく水洗いして切り身にしていく。

 サトイモも一度水洗いして土を落としてから皮をナイフで削いでいく。それが終わったらまた水洗いする。

 それから昼間に王宮庭園で摘んできたハーブも水洗いして小さな虫や土を落とす。

 なにんせよ、水はよく使う。

 もちろん水があまりないときは他の方法で土を根気よく落としたりするらしい。


「なるほど、なるほど」

「ミレルちゃん、メモですね」

「うん」


 焚火に鍋を置き、ハーブと持ち込みのベーコンのスープを作る。

 このベーコンはそのままだと塩辛いのだけど、スープにするといい具合に塩味と出汁が出る。


 サトイモとホーンラビット肉を拾った木の串に刺して、周りに並べて焼いていく。


「いい感じ! ナーシー」

「うんうん。これですわ、ミレルちゃん」


 パチパチと薪が爆ぜる音がする。

 炎が上がり、ゆらゆらと揺れて僕たちの顔を赤く照らす。


 肉がジュワワと焼けてきて、とてもよい焼ける匂いがしてくる。


「わっ、わっ、匂い最高」

「天使様、そろそろいいですよ」

「本当? いただきます!」

「ふふ、いただきます」


 みんなで塩胡椒したサトイモとホーンラビット肉に齧り付く。


「うまい!」

「美味しいです」

「本当に美味しいですね」

「ラーナもたくさん食べていいよ」

「私はそんなに食いしん坊じゃないです」

「あははは」


 スープを分けて飲む。

 温かくてじんわりと体に染みる。

 空には満天の星空が広かっていた。


「美味しかったです、ご馳走様」


 みんなで軽く片付けを済ますと、テントに戻る。


「ラーナ、おやすみ」

「おやすみなさい、ミレル様」

「なんかお話して」

「ふふふ、お子様ですね」

「たまにはね」

「あれは私が最初にミレル様に会った日のことです」

「へーぇ」


 あれをもぐもぐ、こっちをもぐもぐととてもよく食べたそうな。

 その時からすでに食いしん坊だったのですね、と言われてしまった。

 あははは。

 ラーナと並んで、毛布にくるまってテントの中で眠りについた。



 涼しい森の中、鳥の鳴き声で目が覚めた。

 空はすでに明るくなっていた。朝だ。

 なんだかとっても清々しい。

 元気いっぱいで森から戻った。


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