10.ハキーナちゃんと森

 ハキーナちゃんを王宮の森へ誘うことになった。

 その前に、マーシナル王国学院の生徒たちが王宮庭園に見学にくることになった。


「先生、生徒さんたちを?」

「うむ。あの植物図鑑と実物を見比べたいですしね」

「なるほど」


 ということで先生が引率して、裏庭の王宮庭園を見て回ってもらった。

 ただ一応、ここは王宮なので元々は入場審査が厳しいのだ。

 ということで一般開放とかは無理らしい。


 王国学院はエリートの集まりで、ほとんどの生徒は貴族籍だから許可が出たのだ。

 僕も大きくなったら入学する予定でいる。


 生徒たちには以前設置したネームプレートが有難がられた。

 やっぱり名前がついていると分かりやすいもんね。


 そうしてハキーナちゃんがうちにやってきた。

 先に王宮庭園を軽く紹介していく。

 前回は昼食会だけであわただしく帰って行ったので、あまり案内してあげられなかった。


「これが、フレア草、こっちはマイン草」

「なるほど」


 そうして見ていく。


「それでこれが上級ポーションにも使う、エターナル草」

「おお、これですか。普通に植わっているんですね」

「うん。今ちょっと区画を増やしてる最中で、あっちにも植えてある」

「なるほど」


 顔を近づけてよく見たりしていた。

 花が咲いているものは匂いを嗅いだりもしていた。

 どこにでもいる普通の女の子だ。でも外交官のお子様として、留学ついでに一緒に外交までやってしまおうというのだから、頭が上がらない。

 王家の親戚の公爵家なんだったかな、確か。

 そういう上位貴族も、立ち回るのは大変なのだろう。


「それで森で見つけたブルーベリーだよ」

「はい。エバーランド王国にもたくさん生えている種類です。マーシナル王国より少し北ですから」

「そうなんだぁ、へぇ」


 さて軽くだけど一通り案内したので、森へ向かう。


 今日はおじさんはいない。

 ハキーナちゃんとナーシー。もちろんラーナもいる。

 それから騎士団から護衛のバケルトさんが一緒に来ていた。


「近衛騎士団所属、バケルト・ドッシーニです。よろしくお願いします。お嬢様たち」

「小さい子のお守りでごめんね」

「いえいえ、逆に光栄なのですよ。なんたってあの第一王女様の護衛ですからね」

「えええ、最近、英雄視されてるんだっけ」

「それはもう、癒しの天使だなんだと、大騒ぎです」

「そうなんだ……」

「あはは、そうなんですよ。やれ王子派だ王女派だと騒いでいて、とほほ」


 ダンディーなバケルトさんが笑う。

 さてぞろぞろと森へ入っていく。


 ビューン。


「きゃっ」

「わわ」

「なんだっ!」


 バケルトさんが一瞬身構えるが、どうも動物らしい。


「あぁあれは、モモンガですね。いるんですねぇ」

「モモンガですか」

「へぇ」


 僕が応えると、みんな安心したのかホッとしていた。


「いろいろな動物がいるんですね、お嬢様」

「うん。爬虫類とかもいるんだ。ヘビにカエルにトカゲとかも。あとサラマンダーもいるよ。火トカゲなんだ」

「へぇ」


 ヘビは一メートルくらいだろうか。

 カエルは四十センチくらいで毒はなく食べられる。下流のほうのため池に多く生息している。

 堀にも住んでると思う。近くを通ると「ゲコー、ゲコー」とよく夕方鳴いている。


「はい、捕まえた。マイマイでーす」

「これ、これですよ」


 ハキーナちゃんも飛びあがってよろこんだ。

 お目当てのマイマイがいたのだ。

 先日雨が降ったので予定を今日にしてもらった。

 マイマイは雨の後に歩き回るのが好きなので、そういう日に見つけやすい。

 といっても、普段も大きいから見つけられる。

 ただ木影などに隠れているんだよ、一応ね。


「よいしょ、はい入れて」

「はい、どうぞ」


 ハキーナちゃんに持たせてラーナのマジックバッグに入れる。


「夕方に早めの夕食にしてもらおっか。今日はパーティーとかもないし」

「それはいいですね」

「分かりました。帰ったらすぐ準備して伝えますね」

「うん」


 そしてまた歩き出す。


「キノコだ」

「これはクリタケだよ。一応食用なんだけど、毒もあるみたいでたくさん食べるとお腹を壊すみたい」

「ふふふ、食いしん坊は厳禁ですね」

「ちょっとなら大丈夫。えへへ」


 僕がお腹をさすって見せると、みんな笑う。

 小さい茶色いキノコだ。

 傘があって、真ん中の柄はストローのように空洞がある。

 木の根元付近やその周辺の地面に生える。

 ちなみに似てる毒キノコにニガクリタケというのがあるので、注意が必要なのだ。


「これはクリタケだね。ニガクリタケじゃないと思う」

「そうですね。私もそう思いますよ」


 バケルトさんのお墨付きを貰ったので、持って帰る。


「野営とかしますからね。現地で食べれるものはなるべく覚えています」

「さすが、近衛騎士団のエリートさん」

「まあ、そうですね。あはは」

「すごいです」

「ハキーナ様、ありがとうございます」


 こうしていくつかの収穫物を取って王宮に戻る。


「これとこれとこれ、料理して早めの軽い夕食に出して欲しいんだけど」

「おお、姫様、また色々採ってきましたね。どれどれ」


 という風にやりとりがあって、夕食会となった。


「クリタケとタケノコのパスタ。マイマイの甘酢あんかけ、ハーブとベーコンのスープ、ですかね」

「どれも美味しいです」


 ハキーナちゃんも満足して、迎えにきたおじさんと一緒に帰っていった。

 かなりの上機嫌でスキップしそうなぐらいだったよ。


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